'14~'16年とJRA最多勝利騎手&MVJに輝いた戸崎圭太騎手による、大井競馬在籍時代から続く
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【番外編】2018年をプレイバック!月間4勝は2度・・・不振がささやかれた中で掴んだ光明とは?
2019/1/24(木)
2018年シーズンをジョッキーはどう感じたのか。JRAでは年間115勝をマークし、関東トップ。皐月賞も制し、日本ダービーでは自身初となる馬券圏内など、決して誇れない成績だったわけではない戸崎騎手。しかし、リーディングに輝いたクリストフ・ルメール騎手は216勝を挙げたように大きく水を開けられるなど、どこか物足りなさを欠いたのも事実だろう。今回は騎乗馬の話題を主とした毎週末の内容から離れ、2018年を回顧するロングインタビューを実施。不振の中で見出した新たな発見とは。また、気になるライバルたちの存在などについて、タップリと語っていただいた。
-:2018年、1年間はJRAで115勝、NARで6勝。皐月賞制覇などもありましたが、改めて振り返っていかがでしたか。
戸崎圭太騎手:正月明けて重賞3連勝で、今年は違うなという気持ちでしたし…。
-:ボクは当時の話を覚えていますが、「今年は違うな」と思う部分には、その前に改めて何かあったのですか。
圭太:例年1月、2月が良くないので、休んでいる間から少し気持ちを昂らせるといいますか、普段の年末年始に比べると、体を動かすことも多めにしましたし、そんな中で勝てたので“今年は違うかな”という感じでしたけどね…。
▲2018年の月別成績
-:「お酒も控えた」という話はされていましたね。そして、3日間開催の重賞制覇は史上初だったらしいですね。
圭太:3日で重賞があるのもなかなかないですし、騎乗するのも難しいですからね。その後がまた例年通りというか、なかなか勝てず…となりましたけどね。
-:振り返れば、1月は10勝されていましたね。その重賞3つを除いたら7なので、あまり多くないかもしれないですけど、2月が8勝、3月が4勝で、4月は16勝でした。
圭太:リズムが狂っていったというか、ダメな時でしたよね。ダメな時というか、去年の秋くらいから、ようやく自分の中で噛み合ってきたというか、“まだまだやれるぞ”という思いであったので。勝ち鞍的には、馬がよく走ってくれれば勝てちゃうことはあるのでね。そういった面でも、去年は色々勉強になった年でしたね。去年というよりも、今までのことを振り返れる年になったなと。去年をキッカケに今年は、という思いはありますよね。
-:僕は毎週お話をさせていただいているのですけど、逆に毎週伺っていると分かることもあれば、分からないこともある感じですが、いま振り返って1月、2月、3月は気分的や精神的にはどうだったと思いますか?
圭太:その時は“気付けない自分”というのがやっぱりいるんですよね。だから、ずっとやっていることは同じでしたし、ただ勝てないというので…。それは、やっぱり勝てないと気分も乗らないですし、勝つことが僕の中では一番だと思っているので、その中でもやっていることは間違っていない、と思いながらやっていましたけどね。
-:昨年は8月も4勝と振るわなかったわけで。
圭太:はい。
-:8月は騎乗馬を見ても、あまり良い馬が回っていないなあ、今週はコラムの話題づくりが難しいなあと思うことがありました。
圭太:勝てないな…という思いがありましたよ。騎乗馬に関しては、そんなこともないとは思いますけど、徐々にやっぱりそういうところ(乗馬のレベル)はありますよね。去年より一昨年の方が良いのは事実だと思いますし、段々評価が下がっているというのは自分でも感じていましたしね。それは、結果が出ていないので当たり前のことで、というのはありましたけどね。
▲中山金杯・フェアリーS・シンザン記念を制し、幸先はよく映ったが…
-:マネージャーとして、バレットとして、一番、身近で観られてこられた熊野さん的には客観的に見られていて、いかがでしたか。
熊野マネージャー:どこがどうというのではなくて、去年の2月、3月を見ていると、勝てないなとは確かに思いました。だから、当時も(本人から)色々聞かれましたけど、競馬の仕方は別にそんなに言うことはないというか、あとは自分の感覚というか、バランスの話になってくると、下手なことは言えないので。「ああじゃない、こうじゃない」と言うのが一番ドツボにはまってしまうことがありますから。
-:例えると、野球の世界でもスランプの人に打撃フォームをアレコレ教えると、逆にもっと分からなくなったり。
マネ:そうですね。だから、何が悪いとか、ここが悪いからとか適当なことは言えないので、もう見守っているしかなかったというか…。明らかに仕掛けが早いとか、ここの進路の取り方はこうじゃないんじゃ?などは言うことはありますけど、あまりそういうことに関しては、人それぞれというのがあるので。そこを言ってあげなきゃいけない立場かもしれないですけど、僕にはちょっとそれは難しいですね。勉強不足ですね。
-:熊野さんも元騎手とはいえ「経験数が違うからあまり言っても…」と、前もおっしゃっていましたもんね。
マネ:分かる感覚なら良いのですけど、技術的なことはやっぱり人それぞれ乗り方も違えば、重心やバランス…一概に言うのは難しいですよね。
圭太:それは色々勉強しないと。
マネ:下手に言えないですよね。
圭太:だからこそトレーナーという職業がある訳であって。
-:でも、真の競馬のトレーナーは現代にはなかなかいないんじゃないですか。
圭太:いないでしょうね。自分が勉強していく中で、それも感じていますよ。
マネ:手脚の長さが違ったりしますからね。あれだけ成績を残してるからといって、体型も違う(ジョアン・)モレイラの乗り方をすれば、同じように馬が走ってくれるかと言ったら、また別だと思うんですよね。騎座の位置がどうとか、鐙の踏み方が、もっと重心が前じゃないなどなど、そんな適当なことは言えないですよね。
-:最近でこそ、他のジョッキーは動作解析をされる方をつけたりされるそうですね。
マネ:動作解析や科学的な見地から言えるなら良いと思うんですけど、僕にそこまでの知識はないので、言えないですよね。
-:それ自体も合っているかどうか分からないですからね。
マネ:分からないですよ。それは、やっぱりバランスや重心を考えた時に、科学的なもので根拠があるじゃないですか。それならそれを言った上で、本人が納得するとか手応えを感じるのであれば、薦めれば良い話であって、難しいですよね。
-:もう少し具体的におっしゃっていただくと、去年1年間で、気付いたところはどんなことだったのでしょうか?
圭太:具体的には説明しきれないですが、「精神的」にも色々取り組んでいましたし、また勝つようになれるという自信もありました。常々、その意識を持ちながらやっての結果だったんですけど、そんな中で精神的な部分は “勝たなきゃ、勝たなきゃ”と思うが故に慌ててしまって、重心が崩れていっちゃったり、馬への対応が崩れていっちゃったり、コンタクトが崩れていっちゃったり…。
競馬は馬ありき、展開ありきのことなので、勝つということよりも、そっちが先決じゃないですか。勝つのは結果がついてくることであって、もちろん結果は求めるんですけど、それを逆算していった時には、やっぱり勝つことばっかり先に求めて、その「勝つためには」ということを疎かにしていたというのが、僕にはあって、だから冷静ではなかったんですよね。集中も出来ていなかったですしね。
-:「集中」というワードは、少し前にもおっしゃっていましたもんね。
圭太:はい。勝つことばっかりに意識が行って、それまでの過程、プロセスが雑だったというか、やっぱりそこには繋がらないですよね。「勝利」は一つ一つ段階を踏んでいっての結果でありますから。それは去年感じたことで、そこは“精神的に崩れている”部分でしたよね。だから、勝つことに慌てないということだったり、技術的な面では重心の位置だったり、乗り方だったり…。具体的に言うのは、もう少ししてからかな…。
-:もう少ししたら、詳しく語られると。
圭太:そうですね。言ってもいいのですが、今はまだやっている途中なので。
-:今のお話でも、普段よりは詳しく語ってもらっていますけどね。しかし、申し訳ないですが、そもそも周りが聞いても分かる領域ではないような。
圭太:技術的なものは、本当に見えない領域ですからね。熊野さんも言いましたけど、やっぱり分からない部分じゃないですか。でも、自分ではここが変わったなとか、変わっているなというのは感じる部分はありますし、それをもっともっと高めていければなと思いますよね。今は海外の騎手がたくさん来るので、それを目の前で見て勉強出来るということは、幸せなことだなと思いますよね。だから、今は日本の騎手もレベルアップしていますし、若い子なんかはドンドン海外の競馬を観て、勉強してもらいたいなと思いますし、勧めたいですね。自分がもっと若かったら、絶対に行っていますね。
-:今のところ、行く話はないですか。
圭太:たとえいま行ってもダメですね。まずやることがあるので。
「地方競馬でリーディングを獲らせていただいて、中央でも獲らせていただきました。それに自惚れていたというか、甘えていた部分というのはあって…。だから、今こんなことを勉強しなきゃいけないんだ、とすごく感じていますね。それに気付けたということはすごく幸せですし、自分を成長させて高められるだろとも自分に期待しています」
-:改めて行こうという時があるかもしれないということですか。
圭太:う~ん、考えてはないですけどね。やっぱりそれに追っ付いていないですよね。だから、今まで地方競馬でリーディングを獲らせていただいて、中央でも獲らせていただきました。それに自惚れていたというか、甘えていた部分というのはあって…。だから、今こんなことを勉強しなきゃいけないんだ、とすごく感じていますね。それに気付けたということはすごく幸せですし、自分を成長させて高められるだろとも自分に期待していますし、(恩師である)川島(正行)先生をはじめ、本当に色々な人のお陰で勝てていたという、中身は薄っぺらい中でやっていたんだな、とは去年感じましたね。
-:改めてそれを思うようになったのはいつ頃だったのですか。
圭太:去年の秋過ぎくらいじゃないですか。今までも、やっぱりリーディングを獲れたことも自分の力じゃないし、良い馬に乗せてもらって勝てたことで。周りへの感謝はありましたけど、その中で自分のことに置き換えた時に、自分はリーディングだと、キチッと勝てているんだ、と思っているだけで、自分のことは何も知らなかったですし、どれくらい自分が技術を持って、どれだけのパフォーマンスがあるのかというのを考えたこともなかったので。そこを考えさせられる部分があって、すごく成長出来るキッカケを感じられた年ではありましたね。
-:それは、自問自答してそういう風に思えるようになったのですか。
圭太:そうですね。
-:誰かとしゃべったのがキッカケで、気付いたということではないのですね。
圭太:昔は本当に本を読まなかったんですけど、最近は色々な本を読んで、そういうところでも気付かされました。自分は何をしていたんだろうな、という。
-:具体的にどんな本ですか?
圭太:色々読んだので…(笑)。でも、けっこう読みましたよ。移動の時も常に、最近はずっと読んでいますよね。考え方だったり、スポーツ選手だったり、サッカーだの野球だの、色々な人の。それこそコーチングの本だったりとか、すごく気付かされる部分がたくさんあって、今まで本当によくリーディングを獲らせていただいていたなとは改めて感じましたね。
-:逆に、その状態で獲れたということは、今の状態だったらもっと上に行けるということですね。
圭太:今じゃまだ自信はないですけどね。ただ、成長していますし、今後も成長出来るというイメージは出来ていますね。
-:野球選手なら打率や打点、ホームラン数で、ある程度パフォーマンスの指標が出来るので、分かりやすいと思うんですけど、ジョッキーの場合はやっぱり馬ありきじゃないですか。その中で自分はそう思っていても、周りがそう思ってくれない時がある訳じゃないですか。なかなかそれって感じ取ることは簡単じゃない気がするのですが。
圭太:だから、まずは周りからどう思われたいとかというのはないですね。いや、なくなりましたね。その中でもやっぱり勝つことが一番の仕事だと思うというか、結果。勝たなければいけないと思っているので。その中でのバランスというか、自分が成長出来れば、そこでまた結果を求めていく、まずは自分を高めていかなきゃいけないな、ということかな。
-:もちろん勝つことを目指すことは変わりないということですね。
圭太:勝つことが一番なんですよ。
-:その過程が今までとは違うということですね。
圭太:全く違いますね。
(聞き手:競馬ラボ・小野田)
プロフィール
戸崎 圭太 - Keita Tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。99年に大井競馬の香取和孝厩舎所属としてデビュー。初騎乗、初勝利を飾るなど若手時代から存在感を放っていたが、本格的に頭角を現したのは08年で306勝をマークし、初めて地方全国リーディング獲得した頃から。次第に中央競馬でのスポット参戦も増えていった。
11年には地方競馬在籍の身ながらも、安田記念を制して初のJRAG1勝ち。その名を全国に知らしめると、中央移籍の意向を表明し、JRA騎手試験を2度目の受験。自身3度目の挑戦で晴れて合格し、13年3月から中央入りを果たした。移籍2年目はジェンティルドンナで有馬記念を制す劇的な幕引きで初の中央リーディング(146勝)を獲得。16年も開催最終週までにもつれた争いを制し、3年連続のJRAリーディングに。史上初となる制裁点ゼロでのリーディングだった。19年にはJRA通算1000勝を達成、史上4人目のNARとのダブル1000勝となった。プライベートでは2022年より剣道道場・川崎真道館道場の総代表を務めている。