'14~'16年とJRA最多勝利騎手&MVJに輝いた戸崎圭太騎手による、大井競馬在籍時代から続く
人気コーナー!トップジョッキーならではの本音、レースへの意気込みをお届けします!
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【特別編】来年こそ見たい1着の景色 日本ダービー徹底回顧
2019/5/31(金)
3強対決は最先着も、勝負には勝てず…。ダノンキングリーと挑んだ先週の日本ダービー。サートゥルナーリア、ヴェロックスら3強ムードのダービーと言われた中、距離適性は分が悪いという下馬評だったのは事実。しかし、終わってみれば、ヴェロックス以下を引き離して2着に好走するも、その前にいたロジャーバローズを捉えきれず、2着に終わってしまった。当欄でも記した通り「騎手人生の中でも最も勝ちたいレース」と意気込んで臨んだ一戦を終えて、レース運びをどう感じたのか。2年連続2着で感じたものとは。ジョッキーがこだわった一戦だからこそ、たっぷりと語っていただいた。
1週前更新「騎手人生で最も意識したレース」 日本ダービーへダノンキングリーと挑む!はコチラ⇒
-:今週もよろしくお願いします。まずは日本ダービー(G1)の話題から伺いたいと思います。ダノンキングリー(牡3、美浦・萩原厩舎)と挑んだ今年のダービー、残念ながら2着という結果でしたが、レースから数日経ち、振り返られていかがですか。
▲ダービー当日、お昼休みのジョッキー紹介式において
戸崎圭太騎手:(暫く間があり)レース映像は何度も見返していますけど…どうにかならなかったのか、という感じですけどね。
-:決して言葉数が非常に多い方ではないと思いますが、言葉が出ない方ではないと思います。それだけ間があるということは悔しさが。
圭太:悔しいのは悔しかったですね。レースが終わってからも、次のレースもあるため、切り替えなくてはいけないので、そんなに引きずらないタイプですけど、やっぱり月曜日、火曜日くらいまでは…。気持ちの整理がつかないというか、どうにかならなかったのかという思いは、やっぱりずっとありますよね。
-:先程、熊野マネージャーに、帰りの車中での様子を聞いたところ「そこまでは…」ということでしたが。
圭太:帰りは大丈夫だったんですよね。時間を置いてからですよね。段々…。今までにない感覚でしたけどね。
-:「どうにか出来なかったか」という部分、客観的な立場から言わせてもらい恐縮ですが、僕はなかったと思いますが。
圭太:あの差だからどうにかならなかったのか、と思いはありながら、観ていますけどね。
-:もちろんレースは見直されるという話は伺ったことはありますが、いつもと違った見方、回数だったわけですか。
圭太:回数はいつもより観ましたね。ロジャーバローズ(牡3、栗東・角居厩舎)も浜中ジョッキーが上手くエスコートして、馬場と枠を活かして、最高の乗り方で勝ったレースということで、そこは祝福したいですね。
-:僕はレース前に浜中ジョッキーの話を聞いていた訳ではないですけど、思い切った騎乗といいますか。しかし、ロジャーバローズはデビュー、2戦目と乗っていらっしゃった馬でした。
▲ロジャーバローズの初勝利は戸崎騎手の鞍上だった
圭太:あの馬をダービー馬にした厩舎も素晴らしいと思いましたね。
-:改めてダノンキングリーの当日の気配、パドックで跨られた感触はどうでしたか。
圭太:すごく落ち着きもあったし、雰囲気も良く、返し馬に行ってもゆったり走ってくれたので、これは自信を持っていけるぞ、という感覚でしたね。
-:今だから言えますけど、3強ムードと言われていましたけど、極端に言えば、1強ムードという見方もあったわけじゃないですか。ジョッキーとしては、勝つチャンスはあるという心持で乗られたということですね。
圭太:それはもう、もちろんです。ただ、道中の我慢は利くんですけど、あまりムキになると距離は苦しくなるなと思っていたのも事実です。(ハミを)抜けて走ってくれるように、こちらとしてはどうにかやりくりして、距離は持たせたいな、という思いはありました。それが攻め馬だったり、メンコを着けたり、厩舎が工夫して、そういうところはクリア出来ていたと思いますね。
-:メンコを着けていたのは、僕もレースが終わってから気付いたのですけど、戦前からそう打ち合わせていたのですか?
圭太:そうですね。皐月賞が終わってから、進言しましたからね。
-:皐月賞の時は返し馬で着けていて、レースでは外されていました。その効果もあったということですかね。
圭太:何が良かったのか、分からないですね。でも、先生とも密に連絡を取って、攻め馬も工夫してやっていただいたし、その成果だったと思いたいです。負けはしましたが…。
-:1週前追い切りはけっこうハードにやって、日曜日も乗りこまれていました。レース当週は、見た目には「大丈夫か?後方からいくんじゃないか」という声も一部にはあったようですけど、問題なかったですね。
圭太:そうですね。
-:僕は最終追い切りの内容を気にしていなかったんですけど、いま語るとすれば、折り合いといいますか、元気があり過ぎる部分を制御して、距離を考慮したということですか。
圭太:そうですね。距離を考慮して。やっぱり皐月賞の走りだと、不安はありましたので、「工夫は必要だな」ということで。
-:今回は、けっこうペースが流れた上での、離れた番手のポジションでした。折り合い面は流れというよりは、厩舎なり、皆さんの工夫の成果ですよね。普通なら、ペースが流れたら、距離適性で分の悪い馬がもっと苦しくなるわけで。
圭太:それは言えると思います。
-:状態自体は前回と比べてどうでしたか。
圭太:良かったと思いますよ。
-:ライバルと言われた馬(サートゥルナーリア)は、ゲートに向かうにあたり、テンションが上がっていましたし、それを見て、何か感じる部分はありましたか。
圭太:あそこまで行ったら、もう他の馬というよりは、自分の馬に集中していましたしね。
-:ゲートに関してはどうでしょう。ちょっとヒヤヒヤしたのも事実です。
圭太:ゲートは煩かったですね。あれはビックリしました。
-:中継では流れていたか分かりませんが、ラチ沿いでターフビジョンを観ていると、そこがずっと映っていたので、大丈夫なのかなと。
圭太:ゲートに入れた瞬間から煩くて…。それまでは落ち着いていて、集中していたんですけど、少し我慢していた部分で、ヤンチャな部分がゲートで出たのかなぁ。あれでガスが抜けた、というのもあるのかもしれないですし、結果、出てくれたので良かったですね。
-:出遅れる心配がよぎる部分はありましたか。
圭太:ありましたね。
-:隣のサートゥルナーリアもそうでしたけど、大丈夫なのかなと。1コーナーの入りというのは、申し分のない位置だったのかなと。
圭太:そうですね。思った以上に、内の馬が皆、出していっていたので、そこは予想外だったんですけどね。
-:ロジャーバローズは行くだろうとは思っていたんですけどね。
圭太:それは予想していたので、先行集団の後ろには付けて、とは思っていたんですけどね。それよりは一列、二列後ろなのかなと思いましたけど、道中内が空いていたので、特に進路取りも問題なく、スムーズでした。良いところで走れたのかと思いますね。
-:ペースと馬場を考えても、やっぱり後ろ過ぎると届かないですからね。
圭太:それは嫌だったので。
-:道中、向正面から直線にかけては大逃げした馬がいて、離れた集団の好位につけていましたね。
圭太:良いリズムで行けていましたね。あの馬のペースで行けているのかなと思いましたし、4コーナーを向いた時も、前は捕まえられる感覚はありました。あとは後ろが相手かな、というのもあったので…。反応してくれましたし、良い感じで直線を向かえられましたけどね。
-:直線は、他の馬を意識せずという感じでしたか。
圭太:直線に入る前くらいから、前も怖いから、早めにという感じではいましたね。本当は切れる馬なので、あまりダラッとは走らせたくなかったんですけど、僕が感じるギリギリな部分で、早めに仕掛けてはいきました。
-:さすがに前は捕まるだろうなと、僕は思っていたんですけどね。
圭太:正直、僕の感覚としては、最初は伸びて、交わす勢いだったんですけど…。やっぱり最後に止まっているというか、同じ脚色になっているので、早く踏んでいった分なのか、この馬にはやっぱり距離が長い分、そこは最後に感じた部分でしたよね。
-:繰り返しますが、距離適性に不安のある馬なら、普通2400を走るにしても、大抵、ペースが遅い方が持たせられるのでしょうからね。
圭太:はい。
-:ただ、そういう意味ではけっこう速い流れだったので、戦前から距離云々が言われているのを分かっていましたし、ペースが流れるのは分かっていたので、そういう不安はあったのも事実。それでも頑張ってくれましたからね。
圭太:あれが、ゴール板がもう先だったら交わせたのか、検証しましたけど、それは感じられなかったのは事実ですね。もっと早く踏んでいけば良かったのか、色々考えましたけどね。
-:直線でモタれましたが、馬の距離適性がけっこう限界のところで走っているからかなと思ったんですけど、どうでしたか。僕はもう馬も極限のレベルで走っているので、致し方ない部分かと思います。
圭太:多少、まだフラフラする部分もあるんですけど、馬は一生懸命走ってくれました。ちゃんと反応して、伸びてくれましたし、良いレースは出来たんじゃないかなとは思いますね。
-:去年はゴールをして、止めしなで(勝利した福永祐一騎手と)握手をされたそうですが、今年は検量室でしたか?
圭太:いや、今年もしましたよ。(勝った浜中騎手は)初めてダービージョッキーになった訳ですからね。そこは、やっぱり祝福してあげたいですよね。
-:でも、そうやって相手のことを祝福するとは、なかなか出来ないですよね。ましてや、御本人はダービーに思い入れがとてもあったわけで。去年の握手と違った感じはありましたか。
圭太:でも、今年は俺だったのになぁ、という思いがありながら…。
-:それは、やっぱりありましたか。
圭太:ありましたね。
-:良い騎乗を続けていれば、良い馬が巡ってくるチャンスがまだまだあると思いたいですけど、ダービーというのは1年に1回しかない訳ですから、その点でちゃんと巡ってくるかというのは、なかなか簡単なことではないですよね。
圭太:だから、どのレースもそうなんですけど、ダービーは、やっぱり関係者が一番狙っているところではありますからね。
-:ダービーを終えられて、改めて来年に向けて、という気持ちになられていますか。
圭太:そうですね。去年のダービーと今年のダービーで、自分でも精神的な部分であったり、騎乗技術の方だったり、色々良くなっている部分もあると思います。ダービーを基準にじゃないですけど、また来年、成長した自分を感じて、騎乗出来ていれば良いなという思いはありますね。
-:今はジョッキーとして完成型ではないですか。
圭太:それは全然ですね。
-:精神的な部分は、少し分かりやすく言うと、どういうことですか。
圭太:いつもは高揚していたり、ソワソワしていたりとあったとは思いますが、今年は本当に落ち着いて、集中出来ていたと思いますね。
-:正直言えば、去年より、今年の方が東京適性という意味でチャンスがあると感じていたのかと。
圭太:そうですね。だけど、そこは…。
-:色気が出たりはなかったですか。
圭太:すごく楽しめましたし、全然そういうところもなかったですね。とても良い時間を過ごせましたね。
-:あとは、結果だけが。
圭太:結果が出ていれば良かったですけど、「まだまだ成長してからだよ」と教えてもらった気がしましたね。
-:今も南関東の人に声を掛けられたように、今日のトレセンでも「惜しかったね」と声を掛けられることが多かったのではないですか。
圭太:そうですね。「惜しかったね」という声を掛けられましたね。みんなが声を掛けてくれて、ありがたいですね。
-:こだわっていた部分で言えば、先週は特にそうだったと思いますけど、G1ということに関しては、惜しい結果が続いていますからね。
圭太:本当に1着だけが欲しいですよね。
-:今年の2着で、何か見えたものがあったでしょうか。また違うものが見えたでしょうか。
圭太:景色?いや、特にそれはないですね(苦笑)。
-:もう2着の景色は見慣れましたか(笑)。
圭太:あとは、1着の景色を早く見たいな、という感じですね(笑)。
-:来年は3着の景色とならないように。
圭太:そうですね。まずは無事に乗せていただくことなので。
-:その時にケガをすることもあるし、騎乗停止になったりすることもありますからね。
圭太:まずは乗せていただくことなので。
-:今年を踏まえても、レース前よりもダービーに対しての意識が上がったということでよろしいでしょうか。
圭太:うん、来年に持ち越しですね。
-:今年はチャンスがあるかなと思っていたので、蛯名正義さんのような実績のある人でも、なかなか勝てないのがダービーだと思います。本当に運も重要ですね。
圭太:そうですね。でも、何か運も分かるけど、あんまり…。そこはどうにも出来ないですし、だからといって、「運」だけには…。
-:日頃の行いを良くしたからといって、勝てるとは分からないですからね。
圭太:運で終わらせたくないですしね。運がなかったということで、終わらせたくないですよね。
-:運を手繰り寄せる実力も、と。
圭太:運が必要な部分もあるんだろうけど…。
-:そこはもちろん自分のジョッキーとしての腕で掴んでくるということですね。
圭太:そうですね。
-:それの積み重ねで。
圭太:はい。一年の道のりは長いですが、頑張りたいです。
「今春、最後のJRA G1騎乗!アエロリットと惜敗続きにピリオドを」はコチラ⇒
(聞き手:競馬ラボ・小野田)
※次回は6月7日(金)に更新予定です!
プロフィール
戸崎 圭太 - Keita Tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。99年に大井競馬の香取和孝厩舎所属としてデビュー。初騎乗、初勝利を飾るなど若手時代から存在感を放っていたが、本格的に頭角を現したのは08年で306勝をマークし、初めて地方全国リーディング獲得した頃から。次第に中央競馬でのスポット参戦も増えていった。
11年には地方競馬在籍の身ながらも、安田記念を制して初のJRAG1勝ち。その名を全国に知らしめると、中央移籍の意向を表明し、JRA騎手試験を2度目の受験。自身3度目の挑戦で晴れて合格し、13年3月から中央入りを果たした。移籍2年目はジェンティルドンナで有馬記念を制す劇的な幕引きで初の中央リーディング(146勝)を獲得。16年も開催最終週までにもつれた争いを制し、3年連続のJRAリーディングに。史上初となる制裁点ゼロでのリーディングだった。19年にはJRA通算1000勝を達成、史上4人目のNARとのダブル1000勝となった。プライベートでは2022年より剣道道場・川崎真道館道場の総代表を務めている。