半年間のブランクから戦線復帰へ。昨年11月4日、浦和のJBCレディスクラシックでスタート直後に落馬、右肘の開放骨折のため、戦線離脱していた戸崎圭太騎手。その後は2度の手術や入院、連日のリハビリを乗り越え、先日からは美浦トレーニングセンターでの調教騎乗も再開。あとは実戦のGOサイン待ちといった状態だったが、いよいよ復帰を決意したという。今回はその決断に至る経緯、第一声をご覧いただきたい。

8日金曜の調教で感覚に急変化 「行ける」と判断

——普段ならば木曜に伺い、金曜日に公開させていただいているお話ですが、今週は少し早いタイミングとなります。というのも、遂に復帰を決断されたそうですね!

23日の東京から乗せていただくことになりました。先週の段階では、まだまだかな……と不安ばかりでハッキリしたことは言えませんでしたが、金曜の調教に乗せてもらった際にガラっと変わってきた感覚がありました。調教に乗り始めたことで自分の体もレースに行きたいという意識になってくれたんじゃないですかね。美浦トレセンで乗せてもらい始めてからは早くレースでも乗りたいという思いもありつつも、いつになるのか分からなかったのですが、感覚的には「これなら行ける!」という判断ができました。

戸崎圭太

▲東京競馬場での騎乗は2019年11月3日の最終レース以来となる
(左)ケイアイビリジアンに騎乗する戸崎騎手

——半年間の休養、療養と長くかかりましたね。JBCの現場での惨事から毎週、お話は伺わせてもらっていましたが、痛みに耐え、リハビリと本当にお疲れ様でした(リハビリの経緯を読まれていなかった読者の皆様はバックナンバーもぜひご覧ください)。

怪我した直後は違う方向に向いていましたし、怪我をした当初は自分の腕がきかなかったですね。お医者さんにも「酷い怪我だ」と言われていて、握力がなかったり、自分の手じゃない感覚が続きました。2度の手術もあり、思っていた以上に長くなってしまいましたが、騎手として戻ることができてよかったです。ジョッキーを続けられないと絶望するようなことはなかったですが、先生からも「必ず復帰できる」と言われていたので、馬上に戻るという気持ちが途切れることはなかったです。ただ、一時は全治6~9カ月と言われましたが、自分では4カ月くらいで治るんだろうと思っていて、そこは甘く考えていましたね。しかし、医療機関、お医者さんの方々には本当にお世話になりましたし、色々な方々の助けがあっての回復。本当に感謝しています。

——以前にも伺った質問でありますが、南関東時代は相当な乗り鞍でしたし、JRAでも毎週の競馬というスケジュールから離れるのは相当久しぶりではないですか。今までとは違った日々の過ごし方でしょうし、時間との向き合い方も変わったのではないでしょうか。

回復がゆっくりしたスピードでしたし、じっくりリハビリをしていくしかありませんでした。地道にやっていくことしかできなかったですからね。丁寧に、コツコツとやることは日頃の競馬も同じですけどね。客観的にレースを観ていて、ガラっと印象が変わることはありませんが、今までの自分と照らし合わせて観ることが多かったですね。あとはつい最近も言ったように、体の使い方には発見もありました。ただ、これだけ長くやっていますし、もっと早く気づくべきだったこと、変えられないこともありますが、復帰して新たに取り組めればと思いますし、もっともっと成長していきたいですね。

——とはいえ、これだけ長く休まれましたし、当面は様子をみつつの騎乗となりますか?

当初は完璧にしてから、という話をしたと思いますが、流石にすぐに休養前のような数に乗ることはないと思います。調子が良いからといって油断せず、体と向き合いながら乗っていきたいですね。そもそもこのところ東京開催も頭数が少ないですし、トップジョッキーも集まっているので、「乗ります」と言ったからといって簡単に乗り鞍も集まらないでしょうから。

戸崎圭太

▲JBCレディスクラシックでの落馬から201日ぶりの実戦復帰

ファンの「おかえり」の声 レース後の一杯を楽しみにしてきたが…

——毎週のレースも話題にしてもらってきていましたが、先週のレースでいえば、NHKマイルCなどはどう感じられましたか?

展開的にはレシステンシアが行く形になるとは思っていましたが、ラウダシオンが早めにつけていったことが勝因だったと思います。日曜の他のレースも前残りの傾向がありましたし、風の影響で前の馬には有利だったのかなと。ラウダシオンもリアルインパクト産駒らしく立派な馬体をしている馬で、フットワーク的にはこなしそうな走りとはいえ、距離がどうかと思いましたが、問題なかったですね。

——他のレースでは、ウラヌスチャームは以前乗られていましたね。

ノリさん(横山典弘騎手)らしい競馬でしたね。ハナに行った時点でこれは良いだろうなと思いましたけど、昔は行き脚もつくようなタイプではなかったんです。引っかかりはしないですし、出していっても楽に走れたことが大きいでしょうね。

——話題は戻りますが、現在はコロナウイルス問題の影響で競馬の施行も休養前とは変更されています。無観客開催、自宅やホテルなど認定調整ルーム、一部を除き他ブロックへの出走禁止など、勝手は違いますね。

前にも言いましたが、ファンの皆さんからの「おかえり」という声がほしかったですね。無観客の中で復帰することになったのは残念です。それに復帰するまではアルコールも控えていて、復帰した際には、帰りに飲食店にでも寄ってビールを飲みたかったのですが、今の御時世、そうはいかないですよね。

——このところ気温も高まってきましたし、ビールが美味しそうな時季ですが、これまで一切のアルコールを断たれていたわけですし、もともとはグルテンフリーをやられているわけでビールは飲まないようにされていたわけで。

キンキンに冷えたビールを飲みたかったのですが…。ただ、競馬界は開催できていますが、コロナウイルスの問題でもっと苦労している人はたくさんいらっしゃると思うので仕方ないです。また、今のルールのままならば調整ルームではなく、当面は自宅から通おうと思っています。

——ちょっと気の早い話ですが、今年の夏も福島、新潟での騎乗になりそうですか。

そうですね。まあ、そんな話もするのも随分久々ですね(笑)。長いこと騎乗馬の話もしてこなかったですし。今は上半身、下半身と日ごとに分けて、ギリギリ追い込むくらいのトレーニングをしてきました。ダンベルの重さもかなり重くしてやってきました。

これは言ってなかったと思いますが、1日5~6食も食事を摂るようにしているんです。空腹になると、筋肉が大きくなっていかないそうなんですよね。だから食事の量を増やしているというよりは小分けにして食べているんですよね。タンパク質を多く摂ることが目的で鶏のササミを食べることが多くて、他は鮭、鯖、納豆。トマトやブロッコリーも一緒に食べたり。あとは自分で味噌汁は作れるようになりましたよ(笑)。情けない話ですが、今まではそれすらもわかっていなかったですから。

最初は体重が増えないか心配だったので、このところは毎日体重計にも乗るようになりましたね。流石にレースに戻ったら、同じトレーニング、食生活ではいないと思いますけど、復帰前の最後の仕上げのつもりです。

戸崎圭太

——トレーニングする箇所を分けるというのも、運動をやっていた人なら分かるでしょうが、筋肉の回復と成長の時間を設けるということですね。こうして復帰のお話をしてもらうだけに色々伺うべきかもしれませんが、毎週続けてきただけに今回はこんなところで最後にしたいと思います。この半年の間、一番感謝している方といえばどなたでしょう。

お医者さん、トレーナーはもちろんお世話になりましたし、ファンの声も励みになりましたが、一番といったら奥さんですね。大変だったと思いますし、迷惑は相当かけましたから。しかも今は在宅作業の方が増えて、夫婦や家族が一緒になる時間が増えることで問題が起きる家庭もいらっしゃるとテレビなどでは聞きましたが、うちはその前から僕がずっといますからね…(笑)。それも腕が使えない夫なのに、嫌な顔一つせず、いてくれましたから。

——次週からの復帰ということで、また来週にはレースを目前にしての話も伺えればと思います。ジョッキーを支えた方の尽力はもちろんですが、ご本人も厳しい思いをしてきての復帰でしょうし、まず、僕としては結果どうこうより無事を祈りたいです。

ありがとうございます。

——ひとまず復帰が確定のご報告、ありがとうございました。次週もよろしくお願いします。

こちらこそ引き続きよろしくお願いします!

※次回は5月22日(金)に更新予定です!

※当コーナーは新型コロナウイルス感染拡大防止の観点に基づき、電話にて取材を行っております