'14~'16年とJRA最多勝利騎手&MVJに輝いた戸崎圭太騎手による、大井競馬在籍時代から続く
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【ダービー回顧】初めて1番人気で臨んだ競馬の祭典、「レースを見直すには時間が掛かる」自身の成長と無念さ入り混じる3度目の2着
2024/5/29(水)
皐月賞馬ジャスティンミラノと挑んだ日本ダービーは単勝オッズ2.2倍で1番人気の支持。ジョッキーとしても過去に2度の2着があったレースであり、それまでの好走馬以上に手応えをもって臨んだようだが、残念ながら3度目の2着となってしまった。今回は特別に通常の更新に先駆けてダービーの回顧のみを語っていただいた。ダービーから翌々日の胸中を明かしてもらった。
スタートは誤算も「完璧に乗られた」勝ち馬と騎手
——ジャスティンミラノと挑んだダービー(G1)は残念ながら2着となってしまいました。レースについて振り返っていただきたいと思います。
これだけ人気に支持されたので結果を残せず申し訳ないです。
——まず、パドックや返し馬の雰囲気はどうでしたか。
パドックや返し馬では状態は良かったと思いましたよ。
——返し馬は誘導馬より少し先のタイミングで馬場入りしましたね。他より少しだけ先というタイミングでしたね。前回の返し馬の行きっぷりが良かっただけに対策をされたのかと思いました。
そこまでタイミングが変わらなかったのは先に出すのは1頭だけでしたからね。ただ、今回は返し馬から非常に落ち着きがありました。今回は2400mでもありますし、「2400m仕様のつくり」とは厩舎からも聞いていました。そうした工夫もいただいて落ち着きもあったのだと思います。
——走り慣れた東京でもあるとはいえ、大観衆の中でも落ち着いて過ごせていたと。競馬場のビジョンも人気馬ということもあって待機所やゲートまで向かう動きも終始、カメラに捉えられていたのですが、落ち着きがあるなと思いました。それだけにゲートが悔やまれますね。
そこまでは落ち着いていたんですけれどね。これまでゲートでうるさくなるのはなかったので想定外でした。うるさくなったのは元気の良さもあったり、子供っぽさも出たように思います。
——勝負事なので仕方ないですが、隣の馬が暴れた影響もありましたか。
こちらも一度、落ち着いたところで隣の馬が暴れましたからね。その反応をしたのでちょうど遅れてしまいました。タイミング的には影響がありましたね。
——それでもすぐ位置をとって、人気馬としての戦法には徹していたのかと思います。
メイショウタバルが取消になったことで展開のカギを握る馬だと思っていただけにペースは遅くなると思っていましたからね。ポジションは獲ろうと思っていました。あの馬がいたらまた違った展開になり、戦法にもなったと思います。
——折り合いに苦労しない馬としては若干、力みましたか。
前走のペースを経験したこと、出負けしてスピードに乗せた分、普段より噛みましたね。それでも2コーナーくらいからは落ち着きましたし、操縦性の高さは発揮してくれました。
——落ち着いたペースであの位置、共同通信杯の時のようになればと思って観ていました。
いいリズムで走れていましたね。力は出せる走りなのかなと感じていました。
——道中ではマクってくる馬もいました。ペースが遅ければあり得ることだと思いますが、外にいたジャスティンミラノにとっては難しい判断になりましたね。
急激にペースが上がりましたね。マクってきた馬についていくか迷うところもありましたけどね。ペースが上がっていたのはわかったのでそこで外を回り過ぎるのは良くないと思いました。それでも早目にジワジワと上げていきたいと考えていたので流れ的には良かったのかと思います。
——後半5Fはかなり速いタイムでしたね。先週はコース替わり週としては一概にラチ沿いを立ち回った馬だけが上位に来ていた馬場傾向ではなかったようにも感じました。ここで内有利の展開になってしまうとは。
戦ってこなかった相手、それでいてノリさんにも完璧な騎乗をされてしまいましたね。でも、今回のゲートの出方で内枠だったら、序盤は後方になっていたでしょうからね。内から抜け出された時のスピードは一瞬で差がついたように感じましたね。
またチャンスを掴めるように日々の騎乗を大切に
——入線後は地下馬道へなかなか戻られなかったのが印象的でした。横山典弘騎手のウイニングランとも同じタイミングで引き上げてこられましたね。
ダービーの1番人気となかなか経験できない立場。それで負けてしまいましたからね。悔しさであったり、すぐ帰れなかった……ですね。同じタイミングになりましたし、その光景も目にしました。もちろん自分が勝ちたいという思いもありますが、応援してくれた方々の思いに応えられなかったことも悔しかったですね。茫然みたいな感覚と言えばいいのかな。そんな状態で引き上げましたね。
——今回のような悔しさは今までと比較するとどうでしょうか。
今まで……う~ん、なかったかな。色々なところで答えたようにダービーもG1の一つと捉えていたけれど、改めてダービーのすごみも感じたのかもしれませんし、自分にとってもより特別なレースになったのかもしれません。ただ、他のクラシックも桜花賞だってオークスだって勝っているわけではないですからね。どんなレースでも勝ちたいですよ。それは変わらないです。
——有力馬に会って数多くのG1に挑めることも難しいですが、ダービーやクラシックは一度しかチャンスがない難しさがありますよね。
責任を背負って乗りましたし、三冠に挑戦できるのはこの馬だけですからね。ゲートの中や返し馬などもっとやりようがあったのかなと思います。それでも運も実力の内、なんて言いますけれど、運は時の運でしかないと思っていましたが、こうして競馬のように細かい条件が積み重なる競技だと流れや運も大事なのだなと感じましたね。これはダービーに限らずの話ですけどね。そういう意味でも得たものは大きかったです。
——レース後、引き上げてきてからはどうでしたか。
先生や厩舎スタッフとも距離適性はどうだったか、改善できるところはあったか、といった話はしました。普段より少しは(検量室で)レースを見直す時間は長くなりましたけどね。
——競馬場を出てからはどうでしたか。
結果が結果だったので早めに帰宅しました。
——ご自宅で映像を見直しましたか。
いや、観てないです。正直、レースを見直すまでは今回はまだまだ時間が掛かるんじゃないかなと思います……。(ダノン)キングリーの時はその日の間にかなり見直しましたけどね。
——その日はいつも通りに寝られなかったり。
寝られましたよ。でも、普段より時間を掛けて飲んだからかもしれないですね。飲んでなかったら寝てないでしょうね。
——ちなみにレース前日や当日はどうでしたか。
意外や普通に寝られましたし、きちんと起きられましたよ。そういった意味でも昔とは変わったなと思いました。当日も今までダービーは特別な雰囲気と感じていたのが、自分がそう思うから余計に違って感じるのだなと思ったくらいです。全く違った雰囲気ではないとは言いませんが、皆、そう感じるからそんな空気になるのだなとも感じましたね。
——レース前にパドック脇の控室に向かう時などは落ち着いた姿のように感じました。
当日、レースが近づくに緊張感は高まりました。それでも今までとは違った雰囲気でレースに向かえましたね。自分でも成長できたなと思っていたくらいです。冷静は保てていたと思います。
——ホースプレビューで見られたファンもいたかもしれません。レース後、引き上げる際には藤懸貴志騎手とも会話したりしていましたね。他のジョッキーに声を掛けられたりしましたか。
ああ、あれね。「応援しましたよ!喉が枯れるくらい」って言っていたので、「(声が)枯れてねえじゃねえか!」なんて話しましたね(笑)。他は検量室で鞍置きの近い(川田)将雅と喋ったくらいかな。さすがに周りも声を掛けづらいでしょうね。
——藤懸騎手と言えば、戸崎さんと縁の深い助手さんを介して、通算1000勝記念パーティーを開催した際にわざわざ関西から参加いただいたりしていましたね。今回、現場で拝見している印象では馬場入りの後に名前が呼び上げられた時の歓声の大きさを感じました。あくまで自分の意見ですが、今回は応援の声もかなりあったように思いました。大井に在籍された頃から取材をさせていただいていますが、これだけ認知される存在になったんだなと感動しました。
それは応援してくれる目線で見てくれているからかもしれませんよ?でも、昼休みのジョッキー紹介も今まで以上に大きな歓声をいただいたように感じたのも事実です。月曜に山崎良って大井の後輩から電話が掛かってきたんです。ダービーを現地観戦したらしく「初めて日本ダービーの現地にいって、僕への声援が凄かった」と言っていたんですよね。
——唯一の「弟弟子」ですね。以前、当欄でもインタビューもさせていただきました。
そうです。騎手は引退してしまったけれどね。今でもたまに会ったり連絡はしたりするので。
——特別な存在ですよね。なかなか表現はしづらい感情かもしれませんが、いつかダービーを見返す時があるのかと思います。結果は望ましいものにはならなかったと思いますが、改めてどうだったでしょうか。
1番人気のダービーを経験できたのは大きかったですよ。来年以降、活かすことができればと思いますが、そういう馬に巡り合わないといけないですからね。出会いは大切にしたいです。そのためにも日頃の騎乗、結果は大事だと思います。また次の出会いがあるようにレースを一つ一つ大切に乗っていきたいです。流れ的にも、準備や出会いからも今年はいよいよ来たか、と自分では思っていました。自信をもって臨めましたけれどね。
——ダービーに乗ることも大変かと思いますが、人気馬に跨れるのはさらに大変ですね。
日頃からいい行いをできるよう意識したいです。それでもJRAに移籍できたり、リーディングを獲らせてもらったりしてきて、自分は恵まれているとは思います。さらに今回のような経験ができたことは本当にありがたいです。喜べる結果ではありませんが、負けを受け入れている自分もいます。次の一勝、次のレースをきちんと乗れるようにしたいです。
——またその他の話題はあらためて伺えればと思います。レースを終えられて間もないタイミングでしたが、ありがとうございました。
ありがとうございました。
プロフィール
戸崎 圭太 - Keita Tosaki
1980年7月8日生まれ、栃木県出身。99年に大井競馬の香取和孝厩舎所属としてデビュー。初騎乗、初勝利を飾るなど若手時代から存在感を放っていたが、本格的に頭角を現したのは08年で306勝をマークし、初めて地方全国リーディング獲得した頃から。次第に中央競馬でのスポット参戦も増えていった。
11年には地方競馬在籍の身ながらも、安田記念を制して初のJRAG1勝ち。その名を全国に知らしめると、中央移籍の意向を表明し、JRA騎手試験を2度目の受験。自身3度目の挑戦で晴れて合格し、13年3月から中央入りを果たした。移籍2年目はジェンティルドンナで有馬記念を制す劇的な幕引きで初の中央リーディング(146勝)を獲得。16年も開催最終週までにもつれた争いを制し、3年連続のJRAリーディングに。史上初となる制裁点ゼロでのリーディングだった。19年にはJRA通算1000勝を達成、史上4人目のNARとのダブル1000勝となった。プライベートでは2022年より剣道道場・川崎真道館道場の総代表を務めている。