日本競馬の環境
2011/7/30(土)
-:逆にお二人からみて、外国人騎手のいいところはどう思いますか?
秋山:いま、外国人ジョッキーだといっても、誰でも来れるわけではなく、制限がありますよね。自分の国でリーディング何位以内で、一時期に5人までとか。例えば、ウンベルトはイタリアのリーディングというように、本当の実力者じゃないと日本に来られない。?僕らは競馬学校に入って、3年間やって、試験に合格すれば騎手になれるけれど、それまで馬に乗った事がない人もいます。
でも、ウンベルトたちは子供の頃から馬に乗っていて、見習いレースもあって、そんな人達が沢山いるわけでしょ?そうしてやってきた人がプロの騎手になって、その中で更にリーディングになったような人が、日本に来るわけだから、言ってしまえば、負けて当たり前なんですよね。僕の個人的な意見ですけれども、負けていて当たり前なんです。やってきた過程が違うわけだから。
僕らがどうしようが、今すぐにはどうにもできない事じゃないですか?もう一度、小学生に戻れるなら、一からやれるけれど…。でも、そういう人達と一緒にレース乗るわけだから、いま、負けていてもちょっとでも近づけるように、なんとかね…。技術を盗むなりなんなりするしか、ないと思いますよ。
-:確かにそうですね。追いつくために何か具体的にされていることは。
秋山:(レースの)ガン見です(笑)。
-:浜中さんが感じられるところはありますか?
浜中:まだまだ、僕自身の技術が低いので、ハッキリとは言えませんが…。でも、外国人ジョッキーが日本に来たら、「日本はレベルが高いよ」って言いますし、逆に僕らが外国人ジョッキーを見ると、巧いなと思う。その差がどこかというと、具体的には言い表し辛いですね。
ただ、外国の方が免許も早くとりますし、スタートの時点から日本は遅れているけれど、だからといって、負けているとは認めたくはない。認めないように、自分の技術を磨くだけなんですけれどもね。
-:浜中さんからみて、リスポリ騎手の印象に残ったレースはありますか?
浜中:色々ありますけれど、日本初騎乗で勝った時は、ダートも初めてだったんじゃないかと思いますけれど?
リスポリ:ダートはイタリアにはありますね(笑)。(1つがオールウェザーで)3つの競馬場でありますね。ローマは5年前まではダートと芝だったのが、オールウェザーと芝になりましたが、残り2つはダートと芝ですね。
浜中:どちらにせよ、日本に初めて来て勝つっていうのがね。
リスポリ:ダートは嫌いだなぁ。蹴り上げた砂がね。
浜中:確かに!顔が痛いですね。砂を投げつけられたような痛さですよ。
-:浜中さんが、秋山さんのレースで印象に残ったレースはありますか?
浜中:いつも印象的です(笑)。最近だとやはり、小倉大賞典でのサンライズベガには痺れましたね。僕も近くで乗っていたんですが、僕の馬は3コーナー過ぎで手応えがなくなってしまって、後ろから「秋山さん、どう乗るのかな?」と、思いながら観ていたんです。レース終わってから、すぐに言いましたよ。「痺れました!完璧でしたね!」って。
秋山:そう、言われたんですけれどねぇ、自分は「(ゴールした直後は)勝ったかなぁ?」って思っていて。
浜中:「えっ?僕も言ったものの負けてたら、どうしよう」って、感じでした(笑)。
リスポリ:僕はそのレースで、リルダヴァルに乗っていて、秋山さんと康太(バトルバニヤン)の間を突いたんだけれども、自分が3着だったのはすぐにわかりました(笑)。
-:リスポリさんから、お二人の印象に残ったレースはありますか?
リスポリ:スグルは京都牝馬Sかな?上手に乗っていましたね。秋山さんは、その小倉ですね。共に人気じゃなかったのに勝たせていましたし。
-:秋山さんはどうでしょうか。
秋山:浜中君は菊花賞ですかね。あの時、たまたま週中に一緒にご飯を食べていて、えらい、自信ありげやったから。
リスポリ:そのレースはみたことないな。
浜中:観ない方がいいよ。恥ずかしいから。
リスポリ:なんで?
浜中:最後の直線で大きくよれましたからね。
秋山:そこを観ないと!あとは早送りでしょ(笑)。
リスポリ:でも、勝ったからいいね。僕は昔、イタリアのダービーで、レース前に調教師が2400m持つかわからないから、馬の後ろで我慢してくれってって。でも、一番外枠で、ポジション獲りに行ったけれど獲れなくて、ちょっと下げて、内にいくところを探したけれど、結局、内に詰まって出られずに、最後13?14番手から、大外を通って2着までに来たんです。オーナーと調教師は満足していたけれど、僕は全然。そんな、もう見たくないレースはありますね。
浜中:あるある(笑)。
秋山:ありますね(笑)。
リスポリ:次の年もダービーで2着でした。その次の年は、直線はミルコと競っていて、自分の馬は手応えで劣って、垂れてしまって、「もう、2着はいやだな」と思っていたら、4着にまで落ちてしまいました (笑)。
-:わかりました。まだまだ色々なお話しを伺いたいところですが、本日は長い間、お答え頂き、ありがとうございました。最後に抱負というか、目標を教えて頂けますか?
秋山:なんか、あるんかなぁ…。特にないですね。怪我せず、カッコよく乗れるようにですね。
リスポリ:日本に来る前は、こんなに乗せてもらえるとも、勝てるとも思っていなかったし、重賞も勝たせてもらって、今年は本当にいいスタートが切れたと思います。残りの2週間、高松宮記念のキンシャサノキセキもあるので、頑張りたいと思います。
イタリアに帰ってからは、どうするかはわからないですね。開催が再開されていないようだったら、フランスに行きたいと思います。でも、イギリスの競馬はタフすぎるから行きたくないな(笑)。
浜中:僕はG1を勝ちたいですね。今年は重賞も2つ勝てて、いいスタートが切れていますし。G1でも勝負になるような馬に乗せていただいていますからね。
リスポリ:できれば、スグルが勝っているところをテレビでみたいな。コントロールするのが簡単な馬じゃないと思うけれど、ショウナンマイティは勝つチャンスがあるよね。
浜中:ありがとうございます(笑)。
リスポリ:京都や阪神、東京みたいな、ロングストレッチなコースだったら、勝つでしょう?
浜中:俺もそう思う(笑)。
被災地へのメッセージ
リスポリ:イタリアでは、あまり地震が起きないので、こうゆう事態には驚きました。テレビを観て、日本で過去最大の地震だと知り、家族を失われた人達には言葉もありません。イタリアの友達からも「イタリアに帰ってこい、帰ってこい」と、沢山、メールも来ました。
しかし、「僕は関西に住んでいるので、それほど影響もなかったし、日本の人達は地震に対する備えをしているので、大丈夫だ」と、答えました。僕の母も、13年前にイタリアで大地震があった時に、ちょうど中心地にいて、大変な経験だったと言っていました。でも、これがイタリアだったら、もっと大パニックになるのに、日本の人達はこれだけ大きい事件があっでも、冷静で、強い心を持っているなと本当に思いました。
-:2年前にもイタリアで大地震があったと聞きました。
リスポリ:イエス。学校が潰れて、沢山の子供たちが亡くなったけれども、今回の日本に比べたら…。本当にツナミが凄かったですね。
-:秋山さんは、関西出身だと思われますが、昔、阪神淡路で震災があった際はどうでしたか。
秋山:僕はあの時、関東にある競馬学校にいましたから、あまり実感はないんです。僕らは騎手ですから、いいレースをして、被災地の方に観て貰えれば…。元気になって貰えたらいいですけれどもね。
浜中:僕も九州出身だったから、今まで地震をほとんど経験していなくて。今回も東日本だったので、僕らに被害はなかったけれども、新潟にも、阪神淡路にも地震があって。今まで、過去最高の方々が行方不明だったり。
僕たち騎手でやれる事には限りがあるけれども、そういう中で、いいレースをして、観て貰ったことで元気になって貰えるかわからないけれど、自分達にやれる事を今、やるしかないので。被災者の方に対してできる事があるなら、率先してやっていきたいと思います。
(取材日3月中旬)
プロフィール
ウンベルト・リスポリ
(Umberto Rispoli)
1988年8月31日生まれ、イタリア国籍。
04年(16歳)に騎手免許を取得すると、09年に若干21歳ながら年間245勝を挙げて、イタリア年間最多勝記録を27年振りに更新する記録を打ち立てた(この記録は、あのランフランコ・デットーリ騎手の父であるジャンフランコ・デットーリ騎手が記録した229勝を上回るものだった)。
2011年にJRAの短期騎手免許を初めて取得。日本での初レースとなった1月8日の京都競馬第1Rでは、イイデステップに騎乗して、初騎乗・初勝利をマーク。
3月27日までの短期免許期間で28勝。G1レース・高松宮記念など重賞3勝を収めるなど、目覚ましい活躍をみせた。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/289/
秋山 真一郎
(あきやま しんいちろう)
1979年2月9日生まれ、滋賀県出身。
父の秋山忠一元騎手は現在、佐藤正雄厩舎で調教助手。
現在はフリーだが、1997年に栗東の野村彰彦厩舎所属からデビュー。同期には武幸四郎、松田大作、勝浦正樹騎手ら。
デビュー2年目、1998年の神戸新聞杯(カネトシガバナー)でJRA重賞初勝利を挙げると、今年もサンライズベガで小倉大賞典を制し、13年連続重賞勝利を達成中。
09年にはサマージョッキーズシリーズで優勝。同年のワールドスーパージョッキーズシリーズにも出場した。レースリプレイやパトロールビデオの確認を人一倍欠かさないなど、競馬に対する研究心は、トップジョッキーの今も随一。
プライベートではガンダム好きとしても知られる。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/76/
浜中 俊
(はまなか すぐる)
1988年12月25日生まれ、福岡県出身。
2007年に栗東の坂口正大厩舎所属からデビュー。同期には藤岡康太、宮崎北斗騎手ら。
デビュー2年目に73勝を挙げて飛躍。同年に地元の小倉競馬場で小倉2歳S(デグラーティア)を制覇。JRA重賞初勝利を挙げた。その翌年にはスリーロールスで菊花賞を制覇。3年目にして、早くもG1ジョッキーの仲間入りを果たした。
今年3月、坂口正大調教師の引退に伴いフリーとなったが、既に重賞3勝をマークするなど、年々騎手としての実績は右肩上がり。次代のリーディングジョッキー争いの筆頭候補として、年々注目度を高めている。
過去のインタビューは↓
http://column.keibalab.jp/interview/jockey/87/