種牡馬としても可能性は無限大だ。2017年の有馬記念でラストランを飾ったキタサンブラック。初年度の種付けは順調で、馬産地の人気も高い。社台スタリオンステーション・三輪圭祐氏は、3歳から故障なくG1を走り続けた心と身体の強さを高く評価。日本のプロ野球だけでなく、アメリカ・メジャーリーグで40歳を超えても一線級で活躍する「イチロー選手みたい」と例え、種牡馬としての期待と手応えを語った。
(2018年4月取材)

相手に威圧感「オスとして魅力的な馬」

-:有馬記念後、中山競馬場で引退式を終えたキタサンブラックですが、雪の影響で(社台)スタリオンへの到着が遅れたりしましたが、ここまでのキタサンブラックのスケジュールを教えていただけますか。

社台スタリオンステーション・三輪圭祐氏:当然、競馬をタフに使ってきた馬だったので、まずは普通に放牧してもいい状態なのか、確認しなくてはなりませんでした。放牧=休まると限らないですからね。走り回ってしまって疲弊してしまうおそれもあったので、管理するスタッフが馬の様子と相談しながら少しずつ放牧を取り入れたり、軽く運動させたり、種付けシーズンに向けてやってきました。キタサンブラックは精神的にも身体的にも強いので、今のところは順調に何事も問題なく、種付けもこなしている状況です。

-:キタサンブラックが到着した時の第一印象はどうだったでしょうか?

三:僕も、一昨年のジャパンカップを競馬場で観た時以来なので、久し振りに見たのですが、もともと立派で見栄えのする馬だと思っていました。こちらに来ても歩く姿が堂々としていると感じさせられましたし、オーラがあるなと改めて思いましたね。

キタサンブラック

▲昨年暮れの有馬記念で有終V後、社台スタリオンステーションにて種牡馬入りしたキタサンブラック

-:現在のキタサンブラックの1日のスケジュールはどんな感じでしょうか。

三:ジャスタウェイと同様で種付けを一日に1~3回しますね。

-:到着してから約3カ月しか経っていませんが、種牡馬キタサンブラックとしての可能性はいかがですか?

三:まだ子供も生まれていないし、産駒成績という部分では未知なので、何とも言えないですが、1頭のオス馬としてすごく素晴らしい存在だと思いますね。と言うのも、競走馬の時は、パドックに出た時に自分を一番だと主張するような周回といいますか、大きく見せるような歩き方をする馬だったと思います。競馬を観ていても、差し返したりだとか、並ばれてからも眼で勝つような馬の威圧感というか、一緒に走っている馬に威圧感を持たせているのだろう、と思うくらいです。

「野生でも大きな群れを作れそうな、オスとして魅力的な馬という印象ですね。それはうるささや激しさではなく、自己主張して“魅せる”感じがありますよね」


ただ、厩舎にいる時は「すごく従順で扱いやすくて、むやみに牝馬に馬っ気を出す馬じゃないんだ。普段はすごく大人しい」と聞いていまして、レースとのギャップを感じていました。実際に、いま種付けをこなしてきて、厩舎から出てくるなり、他のどの馬よりも大きくいななきながら種付け場に向かってきて、牝馬を呼ぶような、これから牝馬に向かっていくという主張をするんですよ。野生でも大きな群れを作れそうな、オスとして魅力的な馬という印象ですね。それはうるささや激しさではなく、自己主張して“魅せる”感じがありますよね。

-:いまの厩舎でもそんな雰囲気ですか?

三:厩舎の中では大人しいですよ。「厩舎に戻ると、手入れでもすごく大人しい」と聞いていました。だから、オン、オフがキッチリ出来る馬だと思うのですが、1頭のオスとしてすごく格好良いですよ。動物のオスとして、生き物として、格好良いなと思いますね。

-:その中で現役時代とイメージが違う部分はありますか?

三:僕はその通りですね。ただ、もっと普段から激しいところがあるのかなと思っていたのですが、種付けと関係のない時間帯の時は大人しいし、そういう意味でイメージと違うのはソコですね。馬房の中ではすごく大人しくて、ユッタリしていて、休むということをシッカリ理解している馬だというのは意外でしたね。もっと普段からたかぶりやすいのかなと思っていましたけど、大事なところでしか沸騰しない良い気性なのかと思いますね。

キタサンブラック

配合は「生産者の意図によって柔軟に対応できる」

-:もう競走馬から種牡馬に精神面はかわったのでしょうか?

三:なっていると思いますね。自分をオスだと自覚していると思いますね。

-:今年はどれくらいの種付け頭数を想定されていますか?

三:現時点で80頭近く種付けをしているので、順調に行って倍ぐらいに増えたらと思いますね。忙しい日は1日に3回種付けをするとして、あと残り60日以上ありますから。

-:種牡馬としての仕事振りはいかがですか。

三:良いですね。上手ですね。

-:体高も大きいですもんね。

キタサンブラック

三:そうですね。だから、苦戦しないんですよね。自分より体が大きい馬が来たりすると、要は背伸びする格好になるので、難しい馬もいますけど、そういうことがないのはいいことですね。

-:現場の眼から見て、どんな血統が合いそうだと思いますか?

三:基本的にスプリンターの母父で、ブラックタイドは遺伝的に適性距離が長いでしょうからね。あとは生産者の意図によって、例えばキタサンブラックを素材として、もうちょっとスピードのある馬にしようとか、その通りに2400に強い馬にしようとか、柔軟に対応できると思います。あとは体のサイズが立派なので、見立てより小さい馬を産むことが多い牝馬にはもちろん良いと思います。他には、マイラーに寄せても面白いかもしれないですね。

でも、やっぱり2歳戦を勝つには、ある程度早く仕上がるタイプの、短い距離を走れるような牝馬との配合の方が、当然勝ち上がりは良くだろうという気はしますね。これだけの活躍をした馬なので高い能力に間違いはないですし、あとはお客さんに判断してもらいたいですね。

-:ブラックタイド×(サクラ)バクシンオーですからね。

三:バクシンオーもスプリンターでしたけど、ブランディスとか障害のチャンピオンホースが出たり、関東オークスで走る馬(ラッシュライフ)もいた訳ですから。心肺能力が短距離馬ということじゃないでしょう。

キタサンブラックはこれだけ活躍して、2000~3200mまでG1を7つも勝って、馬場がどうであろうが、条件も不問な訳ですよね。あとは、アスリートとして優れているところを見てほしいです。今日は体調がすこぶる良いから良い成績を残して、次はイマイチ体調が良くなくて全然結果が出ないということがなくて、何年もずっと高いレベルで安定した成績を残したというのは、すごい精神力と心身の強さだと思います。そこがアスリートとしてとても秀でているところですよね。

-:種牡馬としてはまだ短い期間ですが、ここまでの種牡馬生活で苦労したことは何かありますか?

三:ないですね。馬自身は順調ですし、あるとすれば種牡馬展示会の時に北島三郎オーナーが来て、スタッフが緊張したくらいじゃないですか……(笑)。みんな子供の頃から観ていた、国民的な歌手の方が実際に目の前に現れた、というところで緊張して失敗するんじゃないかと心配してしまったというのが、唯一の苦労というか緊張の場面でした。あとは順調です。

「とにかくタフで長い期間崩れずに、しかもトップレベルで活躍したというところですよね。イチロー選手みたいなものですね」


-:現時点で感じる長所はありますか。

三:繰り返しになりますが、とにかくタフで長い期間崩れずに、しかもトップレベルで活躍したというところですよね。イチロー選手みたいなものですね。あれだけ毎年200本打つのは大変なことだと思いますよ。そして、ああいう著名人のオーナーの馬で、ストーリーとしても競馬界を盛り上げましたよね。種牡馬って運とか巡り合わせも大事だと思うので、その運も味方につけて種牡馬としても活躍して欲しいですね。

-:この馬は、枠でも本当に運が良かったですもんね。三輪さんから観て現役時代に一番印象に残ったレースはどれですか。

三:生で観ていた最初のジャパンCは印象的でしたし、ほかも全て印象的ですよね。天皇賞(春)だって、差されたかなと思っても、もう1回、自分で相手を弾き飛ばすかのようなレースも印象的でしたしね。

冷静に振り返ると、最近の思い出が強いので、急に強くなったと思われがちですが、最初からすごかったということをもう一度みなさんに思い出してほしいですね。ファンのみなさんも、ぜひもう一度新馬戦から見直して、改めて強さを感じていただければと思います。

キタサンブラック

-:現役時代から大きい馬でしたが、現在また大きくなりましたか?

三:大きいですね。社台スタリオンで一番背が高い馬ですから。立派ですし顔立ちもシャープで格好良いので、誰よりも目立ちますよ。

-:ファンの多い馬ですが、キタサンブラックに会いに行くツアーみたいなものは行われませんか?

三:まだ具体的に公表出来る段階ではないですし時間もかかりそうですが、もう少し一般の方に見学してもらえる機会を増やしたり、観てもらう方法を変えようかと検討中なので、ご期待いただければと思います。

-:また決まったらお知らせさせてください。最後に、種牡馬キタサンブラックの期待をまとめていただけますか?

三:雄大な馬格でありながら、手先の軽さとか動きのしなやかさや俊敏さがあるというところですね。人もそうですが、背が大きかったり、手足が長いと、動きが大雑把というか、大味になりがちですが、実は俊敏さや細かい繊細さもあるというところがアピールポイントですね。馬体に恵まれていながらも、そういうクイックネスというか、俊敏性に富んだ、手先の柔らかさや軽さをすごく感じる馬なので、そのあたりをアピールしたいですね。

-:大型馬なのにレコードを出していますし、ディープインパクトのレコードが破られましたもんね。

三:あの天皇賞(春)は、ただ一般的なステイヤーが勝ったという訳ではないんですよね。脚の速いステイヤーなので、あのレースはこの馬の能力を計るうえで重要です。ハロン12秒で均等に速いラップを刻むことができなければ勝てないタイムで走っている訳ですから。スプリントステイヤーといいましょうか、日本の長距離レースはスタミナ戦とはいえ、速いスピードを持続したうえでのスタミナ勝負なので、そもそもの速さがなければ勝てないんですよ。それを勝って、しかも連覇ですからね。そこは強調したいですよね。

-:それがバクシンオーなんですかね。

三:そうですね。それはあると思います。一介のステイヤーではないというのは。長距離レースでも、ある程度のスプリント力がないと、日本ではレコードタイムを記録して勝てないんですよ。だから、それがこの馬だけの長所だと思いますよ。

-:ありがとうございます。

キタサンブラック