初めての個人所有馬ジャスタウェイがレーティング世界No.1の評価を獲得し、種牡馬に。
人並み外れた馬運の持ち主が脚本家という本業のキャリアを活かし、馬主ライフを書き下ろします。
『ハーツクライ種牡馬引退』
2021/6/25(金)
セレクトセールを目前に我が愛馬ハーツクライの種牡馬引退が発表されました。御年20歳、気が付けばハーツクライが生まれてから20年もたっていました。
時がたつのは早いというか、競馬と関わってからもうかなりの時間が経ちました。まずはお疲れ様でした。無事種牡馬を卒業し、余生を社台SSで過ごせることになって本当に良かったと思います。ハーツとももう何年も会っていないなぁ。
父サンデーサイレンス、母アイリッシュダンスという超良血だったのですが、足ががに股で敬遠されていたのか僕のような入ったばかりの会員でも買うことができたのでした。そのがに股が強さの秘密ともいえるかのような独特なフォームに、新馬戦の返し馬では周囲のジョッキーたちに笑われていたのをはっきりと覚えています。
所属きゅう舎は橋口弘次郎きゅう舎。橋口先生はデビュー前から彼に期待をしていたので、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのトップジョッキー武豊騎手のスケジュールに合わせて新馬戦を選択しましたが、その期待に応えるかのような余裕の勝ちっぷりでした。
思い返すといろいろなエピソードがありました、あの頃のライバルたちは皆個性的であり強かった。クラシックの前哨戦ではスズカマンボと一騎打ちを二回も繰り広げ、京都新聞杯の勝利ジョッキーインタビューではアンカツさんは目を泳がせながらダービーではキングカメハメハに乗りますよオーラをかもしだしておりました。その次の週ではNHKマイルカップでキングカメハメハは圧勝しダービーに駒をすすめていましたね。
長期のスランプに陥ったり、たまに激走したかと思えば二着どまりだったりと、なんとも歯がゆい時期もありましたが、ルメール騎手との出会いが彼の運命を変えたといっていいでしょう。G1にあと一歩届かずにいた彼をかえたのは間違いなく彼でした。
それまで追い込み一辺倒だったハーツクライを先行させるなんていう荒業を、あの時できたジョッキーは恐らくルメール騎手だけだったのではないでしょうか?
ディープインパクトが古馬戦線に殴り込みをかける前になんとかG1を奪取してくれという思いは結局かなわず、ジャパンカップではアルカセットの二着でした。もうダメだろうと諦めたあとのあの有馬記念。先行することによって無敗の三冠馬ディープインパクトに勝ってしまうという大金星を引き起こし、日本中を沈黙と困惑の渦に巻き込んだのは良い思い出です。
あの時喜んでいたのは関係者だけだったのではなかろうか。本当に競馬場が静まっていたし、フジテレビではレース直後にやり直せとか言ってる芸人がいたりいなかったり。
その後はドバイで外国の強豪をねじ伏せての逃げ切り圧勝。イギリスでの三強の激突と、世界各地で馬主冥利につきる活躍をしてくれましたが、すごく楽しみにしていたディープとの再戦となったジャパンカップでは喉鳴りにより力を出せずに終わり、そのまま引退。そのショッキングな引退劇にピンの馬主になることを決意させられたことを考えると、ハーツに背中を押されたと考えてもよいのかもしれません。
現役のころはG1勝たなければ種牡馬になれない。二着じゃダメなんだと毎回やきもきし続けていましたが、振り返ってみればディープ、キンカメとまではいきませんが、それでも日本屈指の大種牡馬となっていました。ディープ、キンカメが立て続けに亡くなってしまった時もハーツクライが種牡馬を引退することなんてまったくイメージしていませんでしたが、よく考えればディープのひとつ年上でキンカメとは同い年だったのをいまさらながらに思い出しました。
ハーツ君お疲れ様。君は競馬の歴史に残る大きな仕事をいくつも実現してくれました。これからはゆっくりして、ひなたぼっこをして、おいしいものを食べて悠々自適に過ごしてください。そして長生きしてください。ありがとうございました。
そしてハーツクライの孫である我が愛馬カリボールが今週の水無月ステークスに出走します。今回さらに200mの距離短縮。これが吉と出てくれるのでしょうか?7着7着ときていますのでなんとか前進してほしいですね。
頭数は10頭と手ごろですのでまずは1400mのペースにとまどうことなく対応できることを祈りましょう。血統的に言えば母父サクラバクシンオーですので短いところのほうが適性はあるような気がしています。鞍上は引き続き西村騎手です。これがダメなら次はダートとなるのでしょうか?あの真面目だったカリボール君が戻ってきてくれることを祈りつつ。とにもかくにもまずは無事完走。そして前進を期待しています。
今年の2歳戦もすでに始まっております。我が愛馬達はどちらもまだ北海道で調教を積んでおります。ジャスコのほうは今月あたまの段階で15秒ペースの調教を積みさらなるステップアップを図っているころかと思われます。
そしてキンカメ×オツウの男の子はまだ名前すらついておりません。移動するとの報告も受けていませんのでいましばらくかかるかもしれません。期待している男の子ということでよい名前をと思ってはいるのですが、なかなか名前をつけるというのは難しい。
コロナ禍でいろいろと楽しみにしていたことを断念している今日この頃です。早くワクチンを接種して安心して酒を飲みにいきたいですね。その日を楽しみにしております。
了
プロフィール
大和屋 暁 - Akatsuki Yamatoya
脚本家・作詞家・ライター。若くして一口馬主に出資を始め、クラブ馬主歴2年目にハーツクライと運命的な出会いを果たすと、有馬記念、ドバイシーマクラシックを制す大活躍。しかし、ノド鳴りによるアクシデントに見まわれ、突如として引退したことに一念発起、馬主になる決心を固めた。個人馬主としては、初めてデビューを果たした所有馬ジャスタウェイが大活躍の強運ぶりを発揮。遂には、目標であったドバイ遠征を実現させ、ドバイデューティーフリー(現在のドバイターフ)を圧勝。「自らの馬でドバイを勝つという」夢を実現させたばかりでなく、そのパフォーマンスが評価され、2014年度のワールドベストレースホースランキングでは、日本馬史上初の1位を獲得している。
現在の現役所有馬はカリボール、マジカルステージ、ジャスコ、キングロコマイカイ。一口馬主や共有馬ではアウィルアウェイ、ルーツドール、イストワールファムなどに出資している。
本業ではアニメ版「銀魂」、「スーパー戦隊シリーズ」などの脚本を手がけ、2020年公開の映画「デジモンアドベンチャー」も担当。愛馬との数年間に及ぶ足跡を綿密に綴った『ジャスタウェイな本』などの執筆も手がけた。