《ミラコロ》ミルコ!牝馬のサンビスタがダートの頂点へ

サンビスタ

15年12月6日(日)4回中京2日目11R 第16回チャンピオンズC(G1)(ダ1800m)

サンビスタ
(牝6、栗東・角居厩舎)
父:スズカマンボ
母:ホワイトカーニバル
母父:ミシル

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寒風の吹き抜ける中京競馬場。だがレースの前はかなりヒートしていた。場内を埋め尽くしたファンが奏でる手拍子。最高の盛り上がりの中でスタートが切られた。やはり先手を主張したコパノリッキー。だが執拗なほどに並んでくるクリノスターオーガンピット。香港からの刺客、ガンピットは早々と脱落気味だったが、ボウマン騎乗のクリノスターオーがコパノリッキーに息を入れさせないほどのマーク。4角ではホッコータルマエも早めに並びに来て、直線に入ってすぐに交わしにかかる程。あまりの早い仕掛けに、コパノリッキーも脚を残せず。絶好のインで脚を貯めていたサンビスタが、直線でホッコータルマエが出て行った後の隙間を狙って外にスンナリと出して、一気に前を襲う。ゴール寸前にはミルコ・デムーロJが、早めのガッツポーズが出るぐらいの勢いでゴールに駆け込んだ…。


寒い一日となった。中京競馬場はパドックを見るスタンド側の方へと風がモロに吹く。それでも名古屋のコアなファンは、動かずに周回する馬をじっと見つめる。場内を動こうにも時間がかかる程の人出となって、パドックの裏手からこちらはスタンドへ向けて見ていた。1頭ずつジックリと見れていい。
まずノンコノユメが3歳馬と思えない程に落ち着いている。そして馬体である。ふつう、ダート巧者の馬はパワー型が多いのが当然。だがノンコノユメの馬体のラインは、むしろ《芝馬?》と思えるほどの線が細いぐらいのシルエットである。それでいて落ち着きがあってドッシリとしている。専門紙に◎を入れる。
パワー型の馬をピックアップしてみる。サウンドトゥルーナムラビクターグレープブランデー、クリノスターオーにホッコータルマエと、ガッシリとした筋肉をまとっている馬ばかり。コパノリッキーは、数字は増えていてもむしろ《今日は細いのか?》と思えるほどだ。そしてガンピット。馬体を見てガッカリとはこの事。まるで牝馬かと思えるラインであり、チャカチャカして落ち着きもない。まるで今まで来た外国馬のイメージとまったく違う。きっと全然ダメだろう…なと思えた。

そしてよく見えた馬に○をつけていったが、その中にサンビスタも入っていた。だが実際に馬券を買うとなったら、買っていたかどうか。ナムラビクター、ローマンレジェンドはいいと思えた。
返し馬のためにパドックを早めに引き上げる。いつもの観戦している場所で待つ。ウイナーズサークルで、自衛隊の音楽隊の《歌姫》の美声に酔いしる。そして馬場入場だ。
ホッコータルマエとガンピットだけがゴール板前を通過していくが、ほかの馬は4コーナーの方へいきなりキャンターとなって行く。ファンファーレと同時に大歓声と手拍子で最高のボルテージとなる。スタンドに近いところでのゲート入りだが、大きく入れ込む馬もない。

ゲートが開いた。コパノリッキーはと見ていたが、まずは普通に出れた。そう速くもないダッシュで、武豊Jが押して押して前へ、先頭へと行く。コーリンベリーは今回もあまり出が速くなく、競りかけに来る気配さえもない。だが、外2頭が凄い勢いで最初のカーブへと突っ込んで行くの表現が正しいぐらい。クリノスターオーとガンピット。クリノスターオーは昨年も早め早めの競馬をしているから先行策は当然に読めていたが、ここまで来るのかと思える勢いだ。何とかコーナーワークでコパノリッキーが前に出ている、が交わしていきそうな勢いだ。

向こう正面に入っても、後続のプレッシャーは緩まない。ホッコータルマエも早めに上がって行きそうな位置である。
3角を廻って、いよいよ最後のカーブにかかるあたりでホッコータルマエがグーンと位置を上げてきた。当然に後続も差を詰めて来ている。曲がり切って直線の入り口の処で、まだ400もあるのにホッコータルマエの幸Jはすでに全開となる。コパノリッキーが最後の力を使って少し前に出るが、すぐにホッコータルマエの勢いに並ばれてしまう。一方、ノンコノユメは、道中はブービーでの位置。最後方がサウンドトゥルーで、前から少し離れた位置だった。直線に入って内を選択したノンコノユメと外へ出したサウンドトゥルーと別れた。ホッコータルマエの外を《何だ、この馬は!》と勢いづく馬が伸びていく。サンビスタだ。それも弾かれたかの様な凄い勢いでゴールを目指していく。差し返す脚もないコパノリッキーとラチの間をノンコノユメが凄い脚で抜いて行くのが見えたが、それでも前のサンビスタの位置までは届かないのを知る。ロワジャルダンがホッコータルマエを交わして3着か、と思った時に大外をサウンドトゥルーが一気に交わした。

検量室前は賑やかである。角居厩舎のスタッフが、そして関係者の雄たけびが凄い。《ミラコロ》ミルコが到着して、なおその歓喜の輪が広がる。
PVを、それこそ何度も何度も見た。ノンコノユメとサウンドトゥルーは、前の集団から離れたブービー、ドンジリだ。サンビスタが絶好の位置にいるのが判る。勝負は外に出すタイミングだっただろう。ホッコータルマエが仕掛けていくちょうどその時に、その後ろにスルっと入るサンビスタ。まるで予期したかのミルコの動きだ。ここらが持っているジョッキーなんだろう。コパノリッキーの武豊Jは《態勢が出来ているのに、意味のない乗り方をされた》と憤慨していた。日本人ジョッキーならそんなことはなかったのだろうが、外国人騎手で一発狙いのアピールチャンスなんだろう。
時計的には1000m通過がが1.00.2だからそう速すぎるものではないが、ずっと離れずにつついてきている流れでは、息も入らない。《スタートからゴールまで、一度も手前も替えなかった…》とも訊いた。ホッコータルマエはコパノリッキーだけをマークした乗り方。早めの仕掛けも相手をこれと決めた乗り方で、仕方もあるまい。

火曜の朝、坂路監視小屋で音無師からの《おめでとう》に、角居師は《普通なら引退している時期なんですが…。社台の人達にも言われました…》と、いつもの小さなスマイルで語っていた。馬を世話をするのが嘉堂信雄さん。障害ひと筋の、元ジョッキーである。優秀障害騎手賞を6度、最多勝利障害騎手も一度とった職人肌のジョッキーだった。サンビスタで今年4度目の重賞制覇。JRAのダートGⅠ制覇となった。

競馬って、長い間やっているといろんな結末に出逢うもの。今回の勝利も、勝つポジションにいて最大限に能力を発揮した《ミラコロ》・ミルコの手腕によるものだったのは間違いなさそうだ。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。