続・北北の話(第70話)

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 静かに明けた2010年。間近に迫っている冬季五輪、そしてサッカーW杯も控えている年ですが、嵐の前のなんとやら、なのでしょうか。とは言っても競馬の世界、馬券師たちに休息はありません。有馬記念が終わったと思ったら、すぐにまた新年の競馬が始まります。年明け早々に11日の中山競馬では、9頭落馬という身も凍るようなアクシデントが起きました。原因を作ったのは飛ぶ鳥を落とす勢いのスーパールーキー・三浦騎手でした。そうかと思えば、16日の京都競馬では3連単1450万円馬券が飛び出しました。そして…。

 「大変ですよ、大変。店長さんがダウンしちゃって…」

 雪深い札幌でも「事件」です。すすきの馬券連のレポーター役、学生君からの一報が入りました。

 「胃潰瘍ですって。今年も金杯で惨敗スタート。北海道神宮で大吉が出るまでおみくじを買い続けて臨んだ3日間開催も連戦連敗。先週なんかは、当たりぐせをつけるんだ、と言って単勝1番人気の馬からの総流し作戦を大展開。そりゃあ、当たりはしましたが、収支決算はもちろん大赤字。そんなわけで日曜日のいつもの居酒屋での反省会で、ぐびぐび熱燗をやっている最中にうなりだしちゃって…。打たれ強い人だってことはこれまでのつきあいで十分わかっていましたが、ついに倒れちゃったんです。今週は自宅療養とのことです」

 学生君の詳細なレポートを聞くまでもなく、1年前まではすすきの場外で肩を並べた間柄、店長氏の乱れ具合が手に取るように分かる次第です。

 「タイミング良く、先日のスポーツ紙に馬の胃潰瘍の特効薬という記事が載っていましたよね。店長氏のことだから並の薬じゃ効き目はないでしょ。お見舞いの時に持っていってやろうかな…」と学生君は冷やかし半分ですが、ライバルのダウンは、やはり気になるようです。

 競走馬の85%が胃潰瘍を患っているというデータがあります。徹底的に管理されたトレセンで、毎日のように人間に調教をつけられているんですから、ストレスは相当のもの。これまでは人間用の薬を大量に投与するか、放牧などでリフレッシュするしか手はありませんでした。まあ、馬の場合は胃よりも腸の方が大事な器官。胃潰瘍と言っても店長氏のように倒れるまで症状が悪化することはほとんどないとのことで、あまり注目されていませんでしたが、昨年7月に日本でも認可された「馬用胃潰瘍」の特効薬は、競走馬たちにとってはありがたいことなのでしょう。

 「馬券が当たる特効薬はないのかねぇ~」ダウンとは行かないまでも、倒れる寸前といった状況なのがTC紙のベテラン馬券記者、N氏です。こちらもまた馬券の連敗が響いているのは確かなのですが、何よりも体力の問題。有馬記念までの地獄のGIシリーズでエネルギーを使い果たし、年末年始は風邪にも見舞われて悲惨な日々を送っています。

 「歳を取ると風邪がなかなか治らないんだよ。紅白歌合戦を39度の熱にうなされながら見たというのに、まだ節々は痛いし、鼻水は止まらないし…」JRA本部の記者クラブ室で相変わらずの横柄な態度に変わりはありませんが、憔悴しきった様子です。ただでさえ滑舌が悪いのに、大きなマスク越しで鼻声となると、話を聞き取るのにひと苦労。まあ、新型インフルエンザでなかったのは不幸中の幸いですが、こんな状況でも毎週のトレセン通いは変わりません。

 「これから美浦入り。今週は土曜日まで残らなきゃならんのよ。生きて帰ってこられるかなぁ~」N記者は珍しく気弱な言葉を残して美浦トレセンに旅立ちました。

 この時期、世の中同様に競馬記者のテンションもどん底状態です。元気なのはごく一部の馬券勝ち組だけ。ほとんどは「1年の計は…」とばかりに打って出た馬券勝負に敗れ、「今年も暗い1年になるのかいな…」とため息をつくことになるのです。それでも馬券記者たちの勝負ドラマは終わることを知りません。店長氏とN記者も体調さえ良くなれば、再び馬券への闘志もわいてくるでしょう。(第70話終了)