重賞メモランダム【ダイヤモンドS】

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ダイヤモンドSは、ステイヤーズSに次ぐ長丁場の消耗戦。厳寒期のハンデ重賞でもあり、ここで目一杯の勝負をかけるトップホースはいない。ステイヤーの頂点、天皇賞・春との関連も希薄なのが常だった。

しかも、土曜日の早朝に、ジャガーメイル(牡6、美浦・堀厩舎)の出走取消(左前フレグモーネのため。症状は軽く、今週の京都記念に登録)の一報が入った。「2強対決」と見ていただけに、力が抜けたことも事実。

ただし、今年のダイヤモンドSには、本物のダイヤモンドがいた。菊花賞はハナ差の2着、続くステイヤーズSを制し、有馬記念でも4着に食い込んだフォゲッタブル(牡4、栗東・池江郎厩舎)の参戦により、レースの重みがぐっと増した。前年比で98・1%の売り上げも、最近では大健闘の部類である。

大方の予想どおり、先手を取ったのは最軽量(50キロ)のドリームフライト(牡6、栗東・福永厩舎)。「大逃げとか、後続を引きつけたりとか意識せず、自分のペースで」(酒井学騎手)刻まれたラップは、1000m通過が63秒0。そこから2ハロン連続で12秒8、さらに13秒3とペースダウンして脚を温存し、じわじわとスピードアップ。先行有利の流れを演出した。

勝ちタイムの3分32秒6は、昨年にモンテクリスエスがマークしたレコードより3秒2も遅いが、レースの上がり3ハロンは35秒9(前年は37秒1)。良に回復したとはいえ、限りなくやや重に近い馬場を考えても、中身は濃い。

フォゲッタブルは、さらに輝きを増している。レース運びに幅が出て、末脚の威力も強化。主役らしい魅せる競馬だった。馬場の中央を堂々と伸び、繰り出した上がりは34秒9。57キロのハンデも、不向きな展開も簡単に跳ね除けた。

この距離の外枠は不利。自然と後ろの位置取りになりました。スタンド前で行きたがりましたが、その後は気持ち良く走っていましたよ。直線でゴーサインを出したら、反応も上々。久々に乗せてもらいましたが、馬はすごく良くなっています」と、武豊騎手は満足そうな表情。
同馬の父ダンスインザダーク、母エアグルーヴでもGⅠ制覇を成し遂げた名手との再タッグが心強い。次走は阪神大賞典の予定。春の盾へ向け、力強く前進していく。

晩成の超良血。セレクトセール(07年1歳)の落札額は、2億5275万円だった。デビュー前、他馬の取材で訪問した筆者に、池江泰郎調教師は、「その馬も大関クラスだが、ぜひ横綱を見ていきなさい。走ってもらわないと困る馬だよ」と、厩まで案内してくれたことを思い出す。

2歳10月に栗東へやってきた当時は、トモの肉付きが物足りず、慎重にメニューを強化。出走は年明けに延びた。2戦目で勝ち上がるも、500万を勝ち上がるのに4戦。セントライト記念(3着)で、なんとか菊花賞の権利を手にした過去が嘘のようである。育成場との行き来でレースに臨むスタイルが通常となったなか、一度も放牧に出ず、ディープインパクトを手がけた池江敏行調教助手市川明彦厩務員が丹念に磨き上げてきた。名門ステーブルの確かな腕と執念が実りつつある。

1馬身1/4差の2着にベルウッドローツェ(牡4、美浦・小島茂厩舎)。2番手の位置取りが功を奏したといっても、かかり通しでの健闘だけに価値がある。「長いところは走りますし、いまが充実一途」と、松岡騎手も胸を張る。この勢いは、今後の重賞戦線でも見逃せない。

36秒1の上がりで粘り込めた3着・ドリームフライト(牡6、栗東・福永厩舎)は、精一杯のパフォーマンス。最速タイの脚で迫った4着・メインストリーム(牡5、栗東・角居厩舎)の充実ぶりのほうが断然、光る内容。長距離戦線でのさらなる前進は必至だ。

直線で狭くなり、動けなかった」(大庭騎手)のが5着・トウカイトリック(牡8、野中厩舎)。ベテランになっても心身はフレッシュで、力の衰えなど感じられない。

8着のヒカルカザブエ(牡5、栗東・岡田厩舎)は、下馬して引き揚げた。「ちょっと歩様に気になるところがあって」と横山典騎手。レース中も違和感があったようだ。これまでの実績が示すとおり、かなりの能力を秘めていても、いまだにしっかり鍛えられない現状である。今回は参考外と考え、完成されるのを待ちたい。