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大井の帝王・的場文男騎手が地方競馬通算7152勝の記録更新!
2018/8/12(日)
12日、大井競馬5Rで1番人気のシルヴェーヌに騎乗した的場文男騎手(61歳)が勝利。40567戦目で地方競馬歴代最多7152勝の金字塔を打ち立てた。7152勝。
積み上げてきたその数字は今日8月12日(日)、ついに歴史を塗り替えた。
不滅の大記録と言われた鉄人・佐々木竹見氏の地方通算7151勝が、大井の帝王・的場文男騎手によって17年ぶりに更新された。
騎手生活45年。その歴史は決していつも華やかなものではなかった。苦難の連続と言ってもいいだろう。名門・小暮厩舎で騎手としてのキャリアをスタートさせたが、当時の兄弟子たちには赤間清松元騎手、高橋三郎元騎手、辻野豊元騎手などのビッグネームが並び、いい馬はまず兄弟子たちが乗るという時代が続いた。耐え切れず騎手をやめよう、そう思ったことも何度もあるという。自身の同期には、今も現役として活躍する天才・森下博騎手がいた。最初から一番だったわけではない。
騎手生活10年目の83年、初めて大井リーディングを獲得。87年には地方通算1000勝。デビューから15年でたどり着いた大台である。今年通算500勝を達成した5年目の大井・笹川翼騎手はこのペースだと通算1000勝は10年目を迎える前に達成するだろう。そう考えれば、15年目の大台到達は決して早いペースとは言えない。
とにかく大井競馬にこだわり続けた騎手生活でもあった。石崎隆之騎手、内田博幸騎手といった南関東のリーディングジョッキー経験者は南関東4場全てで騎乗し、勝利を積み重ねてきた。しかし彼は大井を中心に乗り続けていた。今は4場全てに騎乗するが、若いころは大井を中心に騎乗していた時代もある。最初から4場全てで乗っていれば、とうの昔に記録は更新していたかもしれない。もちろんタラレバであり、更新していなかったかもしれない。
93年に2000勝、99年に3000勝、2002年には通算4000勝、そして初の全国リーディングを獲得した。この時45歳。騎手生活30年近く経っての初の全国リーディング獲得、これは遅咲きに近いかもしれない。
大ケガも何度も経験した。骨折から臓器の損傷、そして大量出血で命の危機に瀕したこともある。昨年のダイオライト記念でトーセンハルカゼに騎乗した際、レース前に手を骨折しながらそのまま2400m乗り続けたこともある。そのたびに、不死鳥のごとく大井のダートに戻ってきた。何度でも立ち上がるその姿をファンは敬愛し、いつしか『大井の帝王』…彼はそう呼ばれるようになった。
歳を重ねても勝利に貪欲で、馬に対する情熱は他の追随を許さない。以前こんなことがあった。川崎競馬場の最終レースで的場騎手の騎乗した馬が1コーナーで競走中止。後続を走る馬に思いっきり踏まれ、そのまま救急車で病院に搬送された。誰もが心配していたが、翌日の朝2時、いや、朝というよりまだ深夜、的場騎手は大井競馬場の調教一番乗りを果たしたのである。落馬して救急車で運ばれてからわずか5時間後のことであった。
個人的に忘れられないのは今から6年以上前、2012年3月7日の大井5レース。5番人気シェアザドリームに騎乗した的場騎手は最後の直線で内のマイネルロワイヤルと叩き合いに。激しい叩き合いの中、マイネルロワイヤルがなんと的場騎手の右腕に噛みついたのである。彼は噛みつかれた瞬間振り払い、そのまま勝ってしまった。レース後右腕には大きな歯形がつき、腫れ上がっていた。当然であろう。しかしその日、残る6レースで2勝2着2回。腫れ上がった右腕で渾身のムチを振るい、騎乗馬たちを勝利に導いたのである。
騎手生活45年。今も彼は毎朝調教に騎乗し、馬たちを鍛えている。中には他の誰にも乗せない、そんな馬もいる。調教中に落馬することも珍しくない。2歳馬に落とされながら、何食わぬ顔で他の馬の調教に乗り続ける。あと1ヶ月ほどで62歳になるとはとても思えない。
先月17日、浦和競馬場でタマモサーティーンに騎乗した際には、最後の直線で先頭に立って急に物見した騎乗馬に振り落とされながらも、手綱を掴んだままゴール。執念の勝利をもぎとった。また伝説に新たな1ページが加わってしまった。前開催も迫ってきたエピスリスに1人で抵抗し、エピカリスが下がっていくという不思議な光景があったばかり。まだあと何年も現役をやれるのではないか、そう思っている関係者、ファンは多い。
「この開催中に新記録を達成します!」そう言いながら臨んだ前開催の大井競馬。新記録直前は力が入り過ぎるのか、白星を挙げるペースが遅くなる傾向もあるのだが、1つずつ勝ち星を積み上げ、ついに、日本人が誰も到達していない領域に足を踏み入れた。ここからは日本人は誰も知らない領域であり、知っている騎手は世界を見ても数えるほど。帝王は新たな伝説を作り、新たな伝説のステージに入った。
残るは、37回挑戦して10回の2着がありながら未勝利の東京ダービー制覇のみ。「人生の宿題」と語る東京ダービー。大井が世界に誇る最高のレースを制するまで、帝王の歩みは止まらない。
(文・佐藤ワタル)
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