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【香港国際競走2019】日本馬3勝!快挙の一日を現地レポート
2019/12/14(土)
2019年12月8日(日)、シャティン競馬場で行われた香港国際競走。1994年の創設から(一部それ以前から施行)、日本の競馬界においても冬のイベントとして馴染み深いが、香港ヴァーズ、香港マイル、香港カップと日本馬が制覇。2001年以来となる日本馬の3勝の快挙となった。香港民主化デモの影響により、開催を危ぶむ声もあったが、地元競馬会の尽力もあり、無事に開催。ここでは現地に赴いたスタッフのレポートを届けたい。
レースを前に、今年は3月から続いた香港民主化デモによる競馬開催への影響を懸念する声が相次いでいた。日本馬の参戦表明だけは進む中、日本からテレビ、インターネットを通してみる現地の様子は、平和的デモとは程遠い様子も散見されたのも事実だ。また、参戦を予定していたスターホース・アーモンドアイが急遽遠征を中止。この馬の存在で心待ちにしていたファン・関係者もいれば、同じレースとなることを避けた陣営もいたため、その少なからずショックは大きかっただろう。
競馬開催も無関係ではなく、これまでに2日間のハッピーバレー競馬場の開催が中止(香港国際競走はシャティン競馬場)。JRAの海外馬券発売の発表も遅れた。レース当日もメディアの宿舎である湾仔(ワンチャイ)から隣の銅鑼湾(コーズウェイベイ)で大規模デモ行進が開催。幸いレース開催中と重なったため、現場を目の当たりにすることはなかったが、武装した警官が一部通路を封鎖するなどの光景も見受けられた。競馬場の入場人員も昨年の9万6388人から71%減少となる2万7965人に。どうりでこの週のための特別グッズ売り場の特設ブースは人がまばら。スタンドでも日本語がよく聞こえたのかもしれない。
それでも現地サークルにおいては暗い話題ばかりではない。香港国際競走の売上は17億1000万香港ドル(約239億4000万)で歴代最高を数えた。これには香港ジョッキークラブのウィンフリード・エンゲルブレヒト・ブレスケスCEOも「これほどの結果を予期していませんでした」と声が弾んだ。
香港国際競走の初陣を切ったのは香港ヴァーズ(G1)。現地では1番人気に支持された昨年の覇者エグザルタントが逃げを打つ展開。勝ったグローリーヴェイズ(牡4、美浦・尾関厩舎)は鞍上のジョアン・モレイラ騎手がスタートして、すかさず内の動きに目をやり、ラチ沿いへ誘導すると7番手付近を追走。日本から参戦したディアドラは最後方、ラッキーライラックも早めにマクっていったが、後方からの競馬に。4角から直線に掛けて馬群が凝縮すると、グローリーヴェイズは内のスペースを突いて追撃。逃げるエグザルタントを楽に交わしさると3馬身半差でゴール。2着ラッキーライラック(牝4、栗東・松永幹厩舎)、4着ディアドラ(牝5、栗東・橋田厩舎)とはポジション取りの差、モレイラ騎手のソツのないレース運びが明暗を分けたとはいえ、ここで覚醒。国内でも重賞1勝馬だった馬とは思えぬ爆発力をみせつけた。
管理する尾関知人調教師はこの要因を2つ挙げてくれた。まずは「コース」。京都大賞典以降、例年以上に手薄とみられていたジャパンCでもなく、有馬記念でもない、香港ヴァーズという選択肢については「時計が速いけれど、2分22秒台のような超がつく高速馬場ではないし、平坦コース。また、一頭でも調教ができるくらいの馬ですからね」とトレーナー。狙いすました参戦だったことを明かしてくれた。
もう一つは「騎手」。前日にジョッキー、オーナーサイドとミーティング。過去のレース映像をみて挑んだようだが「最後も外に出すと思ったら、内へ切り替えてソツのない競馬でした。モレイラ騎手に乗ってもらうと、こんなにも強い競馬をするのですね…」と驚きを隠せないようだった。
この走りには、ラッキーライラックを管理する松永幹夫調教師もお手上げといった様子。「今日は前が残っていた馬場だったし、流れからもあの位置からではどうなるかな、と思いましたが、馬は力を出していますよ。今日は勝ち馬が強かったですね」とライバルのパフォーマンスを幾度となく称賛していた。
過去にも日本馬の好走が見られたレースだったが、今年はレース展開を考慮しても地力の高さを示す結果。しかも、日本の競馬界においては暮れに有馬記念を控えている最中の布陣での上位進出。来年以降も日本勢の活躍の可能性が高いレースは香港ヴァーズかもしれない。
3着 エグザルタント(パートン騎手)
「枠の影響で厳しいレースになってしまいました。馬はベストを尽くしてくれましたが…」
香港スプリント(G1)は唯一の日本馬だったダノンスマッシュ(牡4、栗東・安田隆厩舎)が8着に敗退。レース後のランフランコ・デットーリ騎手は「ゲートで伸び上がるようになり、その分、後ろのポジションになってしまいました。残念です」と険しい表情。ここ最近は安定した競馬が続いていたダノンスマッシュだったが、過去にはゲートを失敗していた経緯も。異国の地での環境に馴染めなかったか。
ダノンスマッシュに騎乗したデットーリ騎手
この日は同レース連覇の実績を持つロードカナロアの名が刻まれたレースも行われていたが(9Rのロードカナロアハンデキャップ。香港国際競走当日の一般競走は例年、過去の勝ち馬の名前が用いられる)、父子制覇は叶わなかった。
1番人気はジョッキークラブスプリント(G2)を快勝して臨んだ3歳のエセロだったが、逃げ切りならず。勝ったビートザクロックはデビュー以来、3着を外していない安定株とはいえ、またしてもモレイラ騎手が勝利。この日は香港国際競走2つを含め、5勝。日本人にも健在ぶりをみせつける活躍だった。
アドマイヤマーズ(牡3、栗東・友道厩舎)、インディチャンプ(牡4、栗東・音無厩舎)、ノームコア(牝4、美浦・萩原厩舎)、ペルシアンナイト(牡5、栗東・池江寿厩舎)の4頭が出走したのが香港マイル(G1)。地元カーインスターが逃げ、番手に昨年の覇者ビューティージェネレーションがつける形。アドマイヤマーズはラチから外2頭目の中団、ノームコアはその外。インディチャンプ、ペルシアンナイトは後方からに。直線ではカーインスターが力尽きたところでビューティージェネレーションが先頭を窺うと、そこに外からアドマイヤマーズが差す形。その外には地元ワイククの強襲にもあったが、激戦を制した。
アドマイヤマーズは先日、亡くなった近藤利一オーナーへ弔い星に。オーナーがこの日のために用意していたという新調したスーツを代わりに纏い、レースを見守ったのが友道康夫調教師だったが、レース後は人目をはばからず涙した。
国内では日本ダービー2勝、先日のジャパンCの5頭出しなど、長距離戦線を主戦場にトップステーブルとして名高いが、厩舎としては一昨年のドバイターフ(ヴィブロス)に続く海外G1制覇。昨年もこのレースに管理馬を送り込み、2着に屈していたが、自身としてもリベンジを果たす形に。「10頭立てなので、前目のポジションはとらないと思っていました。スミヨンともレース前に打ち合わせたけれど、『この馬はこういうタイプだよ』と全部把握してくれていましたからね。イメージ通りの競馬でした」と友道調教師。
【亡きオーナーのスーツと共に】
— 競馬ラボ (@keibalab) December 8, 2019
アドマイヤマーズの友道康夫師が身に纏っていたのは、先日亡くなった近藤利一オーナーが香港で着用する予定だったスーツ。「うちの厩舎があるのは近藤オーナーのおかげ。日本に戻りいい報告ができます」と語る友道調教師の目には光るものが…https://t.co/GoqyML6f7D pic.twitter.com/NPucBcnXEP
攻め専であり、数々の名馬の調教をつけている厩舎スタッフの仕上げも功を奏したのだろう。前走時と異なり、調教時のメンコを外したり、ハミもDバミに替えるなど変更したこともハマったか。現地では馬の状態が日増しに上がっていたことを感じていたというトレーナーだが、その理由については「栗東での検疫の段階からインディチャンプと帯同させてもらいましたからね。そして、こちらの国際厩舎の馬房も広々としているんです。ゆったりとした環境で馬が馴染んだのかもしれませんね」と語ってくれた。また「スミヨン騎手もマイルが合っていると言ってくれましたし、海外を含め、日本に帰ってまた考えたいです」と今後の海外遠征についても意欲。この厩舎力は今度も続きそうだ。
2着 ワイクク(モレイラ騎手)
「大外枠でしたが、いいレースができました。枠の差は大きな差ですが、それだけが敗因ではありません」
3着 ビューティージェネレーション(パートン騎手)
「直線を向いたところでは勝ったと思いましたが…」
そして、香港国際競走、最後のレース。日本馬の海外遠征の一年の締めくくりとなったのが、ウインブライト(牡5、美浦・畠山吉厩舎)が挑んだ香港カップ(G1)。当初はアーモンドアイが参戦すると予定されていたため、8頭立てと少頭数に。ならば、今春の香港・クイーンエリザベスⅡ世Cの勝ち馬であるウインブライトが圧倒的支持を集めそうなものだが、この秋の国内での2連敗が影響したか、現地オッズでは3番人気の位置付けに。
しかし、レースでは外枠から終始、前目のポジションを守り切ると、ペースは得意とする持続力が求められる流れに。直線では外のライズハイとの追い比べを振り切ると、内からライアン・ムーア騎手のマジックワンドも詰め寄ったが、それも退ける。春は勝利して大きなアクションをみせた鞍上も、この日は当然といった様子か、喜びをじっくり噛み締めていたようだった。
「この秋、体調がなかなか乗ってこなくて、不本意な競馬が続いていましたが、香港ジョッキークラブのサポートがあって、凄くいい1週間を過ごすことができました。今日のレースは日本でも中継されていましたし、沢山の応援をいただいていましたからね。勝つことができて、最高の日になったと思います」と管理する畠山吉宏調教師。
松岡正海騎手は「春に一度、経験したことで馬が落ち着いていました。調教に乗って具合が春くらいになっていると思いましたよ。隣の枠のゲートボーイが気になって、日本のようなスタートは切れませんが、ペースが遅いのでどうしてもポジションは下げたくなかったです。直線で視界が開けたら勝てると思いましたね。アーモンドアイと走って、勝つことを楽しみにしていましたし、出走を回避したことで責任重大でしたし、日本人が一人だったので魂をみせられましたよ」と振り返った。
日本馬の海外遠征が頻繁になった昨今。しかし、その一方で国内外でのレースで、有力馬に外国人ジョッキーの鞍上という構図が増えてきていることは誰でも感じとっているだろう。また、ウインブライトは日高地区の生産馬でもあり、今をときめく社台・ノーザンファームグループとも異なる。現代競馬の中で、ウインブライトと松岡正海騎手が演じた、この香港での2つのG1制覇は日本人の競馬関係者にとっても、大いに刺激になったのではないだろうか。少なからず、レース前後の日本人ファンの声援や国旗を振る姿も他のレースより多かったようにも感じた。
2着 マジックワンド(ムーア騎手)
「素晴らしい走りでしたが、アンラッキーでした」
3着 ライズハイ(ホー騎手)
「ポジションは完璧でしたし、折り合いもつきました。ただ、先着された2頭が強かったですね。またこの馬も強くなって、この舞台に戻ってきたいです」
他競技やコンサートなどがデモの影響により、延期や中止になることが少なからずあった今年の香港。繰り返しになるが、地元競馬会の尽力により、水曜日の国際騎手招待競走(ロンジンインターナショナルジョッキーズチャンピオンシップ)に始まり、日曜の香港国際競走に至るまで無事に開催された。レース当日に恒例となっていた花火の自粛、開催時間の変更などもあったが、情勢を見極めた上で柔軟に対処した結果といえるだろう。また、個人的には、2度目の現地取材だったが、競馬会の海外メディアに対しての対応も迅速かつ丁寧だったことは記しておきたい。
今年は日本馬の勢いを感じさせる結果となったが、もちろん地元陣営もただでは引き下がらないだろう。香港ジョッキークラブは昨年、中国広東省にトレーニング施設を併用した従化競馬場もオープンさせており、競走馬のレベルアップに繋がることは間違いない。日本競馬のサイクルに組み込まれつつある感のある香港国際競走だが、海外でも結果を残すようになった日本競馬と発展を続ける香港競馬との競り合いを感じさせるようなイベントになればよりレベルは上がるだろう。日本のファンにも比較的アクセスのしやすい競馬場でもあり、今後、日本を含めたさらに大きなミーティングとなる可能性を秘めているだろう。
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