重賞メモランダム【フローラS】

トピックス

今年は春の訪れが遅く、風が冷たい日曜の東京。ただし、広々としたロケーションにまぶしい日差しが振り注ぎ、爽やかな気分になる。場内の新緑が輝いて見え、コースに目を移すと。芝もきれいに生え揃っている。
土曜には良に回復した走りやすい馬場で、オークストライアル、フローラSが行われた。1000m通過が1分0秒6とミディアムに流れたが、広い東京らしく、そこから各馬とも追い出しを我慢し、速い上がりが求められる展開に。それでも、勝ちタイムは過去10年で最速となる2分0秒2。レースレベルは高い。

先行有利の決着だったとはいえ、着差(1馬身)以上の実力を見せ付けたのが、単勝1・9倍の1番人気に推されたサンテミリオン(牝3、美浦・古賀慎厩舎)だった。安定した末脚は、どこまで行っても逆転できそうもない迫力に満ちていた。
「2着馬が渋太く、少し骨を折ったけど、力強い勝ち方。前回より穏やかな精神状態だったので、イメージどおりの競馬ができたよ」
と、外枠にもかかわらず、すっとベストポジションを取りに行った横山典弘騎手。ジョッキーの手腕も光る。これが早くも今年の重賞8勝目。この日は5勝の固め撃ちを決め、ノリに乗っている。
フラワーCは位置取りが悪く、痛恨の3着。桜花賞の切符を手にすることができなかった。この一戦、そして、オークスに賭ける思いは、並々ならぬものがあった。陣営も、中間はゲートを練習し、テンションを上げすぎないように調整を工夫。前走の苦杯が、同馬をさらに進歩させる原動力となった。
「父のゼンノロブロイも、3勝目が重賞(03年青葉賞)。よく似ている娘で、同じように勝ててうれしいね」
まだキャリアは4戦。大目標のオークスでは、ダービーで2着に健闘した父を凌ぐ走りが期待される。母のモテックはフランス産で、現地のGⅢ、フロール賞に勝っている。母仔ともに、フローラ(フランス語ではフロール、ローマ神話に登場する花と春と豊穣を司る女神)に輝いたことになる。距離延長にも、十分に対応できる血脈だ。

2着のアグネスワルツ(牝3、栗東・宮本厩舎)もゼンノロブロイの産駒。こちらは骨折による5か月の休養明けに加え、母メルロースウィートがマイル以下で4勝したスピードタイプだけに、厳しい条件かとも思われた。ところが、折り合いを欠くこともなく、直線も最後まで懸命に抵抗。未勝利、白菊賞と、他を寄せ付けずに連勝しただけのことはある。レース直後には、宮本博調教師がこう明言した。
「NHKマイルCではなく、オークスへ行きます。ジョッキー(柴田善臣騎手)も乗り味を絶賛してくれ、2400mでもやれると話してくれましたから」
きっちり仕上がっていたことも事実だが、桜花賞の結果を見れば、本番も厳しいペースにはならないだろう。侮れない一頭となった。

3着のブルーミングアレー(牝3、美浦・小島茂厩舎)までが、オークスへの優先出走権を獲得。
「手応えは絶好なのに、伸びそうで伸びない。あせったよ。権利確保が最優先だし、枠順もあって前で競馬をしたが、控えたほうがビュンとくるね。距離が延びるのはいいし、本番での戦法は決まった」
松岡正海騎手は、説得力のあるコメント。その言葉に、小島茂之調教師も納得の表情だった。同馬も結果を残さないと先につながらない状況で、しっかり態勢を整えて臨んだが、久々を乗り越えての好走。さらに相手が強化されても、一発の魅力が漂う。

末脚に見どころがあったのが、4着のアマファソン(牝3、栗東・松田博厩舎)と、5着のアスカトップレディ(牝3、栗東・須貝尚厩舎)。どちらも使われながら軌道に乗ってきた。イメージ以上に奥が深そうである。

それぞれが愛馬の将来を思い浮かべ、明るい表情の関係者が多いなか、がっくりと肩を落としていたのが四位洋文騎手。素質を買い、わざわざ乗りに来たメジロジェニファー(牝3、栗東・北出厩舎)は、なんと14着に大敗してしまった。
「ラチが切れた箇所にロープを張る係員に影響されて、まさかの放馬。落ちた自分が一番いけないんだけど、福永(祐一騎手)の馬も驚いて、もう少しで2頭が空馬になるところ。心拍数が上がっていないとの診断だったが、後味は悪いよ。一生懸命に仕上げたスタッフに申し訳ない」
つかまえるのに苦労して発走時刻も遅れ、ほとんどのファンは除外になると思ったはず。馬場をロープで区切るタイミングとしては、返し馬の直後でなければ間に合わないという事情は理解しているが、こうしたアクシデントが起こらないよう、主催者側には適切な対処を求めたい。

最終トライアルのスイートピーSが残されてはいるが、オークスの顔ぶれはほぼ固まった。本流となる桜花賞組に、中身が濃いフローラS組がどう挑むのか、俄然、楽しみになった。勢力図が一変しても不思議はない。