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重賞メモランダム【NHKマイルC】
2010/5/11(火)
競馬はタイムトライアルではない。あっという間に過ぎ去る時間ではあっても、人と馬との意志のぶつかり合いや、他との駆け引きが凝縮されるからこそ、観るものを惹きつける。距離別に記録され、頻繁に目にするレコードタイムも、能力を量る際の目安にはなるが、それ自体を超えることが目標にはならない。ただし、毎週、競馬場に足を運んでいても、電光掲示板に数字が表示された瞬間、息を飲んだ経験はそう何度もない。レース後、「こんなレコードが出るなんて。この場に立ち会えただけで、きょうは来てよかったよ」とのオールドファンのつぶやきが耳に届いてきた。まったく同感である。
例年以上に整った馬場状態を考えれば、「31秒台の決着になると思っていた」(横山典弘騎手)と読んだ鋭い予想者だっているかもしれないが、現実のものになってみると、やはり驚くしかない。今年のNHKマイルCは、1分31秒4という日本最速のタイムが叩き出されたレースとして、多くの人に記憶されるに違いない。
前半5ハロン通過が56秒3。超ハイペースにより、驚異の走破時計はもたらされた。だが、後方待機勢にも忙しく感じる流れであり、展開に乗じた馬たちが台頭したわけではない。しかも、まだ伸び盛りにある3歳によって達成されたのだから、他の日本レコード以上に価値がある。この世代のレベルの高さを物語っている。
タイムを抜きにしても、ダノンシャンティ(牡3、栗東・松田国厩舎)のパフォーマンスは破格のものといえる。
前半は後方3番手のポジション。その姿がターフビジョンに映し出されると、観衆からどよめきが起こったが、鞍上の安藤勝己騎手の気持ちはいたって冷静だった。
「この馬の力を信じていたからね。不利がなければ届くと思い、迷わずに外を回したんだ」
手応えどおりに末脚が爆発した。必死に抵抗する他馬が止まって見えるほど。レースの上がり3ハロンが35秒1だったのに対して、33秒5の末脚を繰り出した。次位(6着のエーシンホワイティ)をコンマ7秒も凌いでいる。
「現時点でも完成度は高い。反応が鋭く、マイルが乗りやすいタイプだしね。距離が延びるダービーとなれば、要求されるものも変わってくるが、この強い勝ち方だから、当然、期待は大きいよ。胸を張って挑戦できる」
管理する松田国英調教師は、戦前よりこの一戦をダービーへのステップと位置づけていた。変則的な2冠挑戦であっても、クロフネ、タニノギムレット、キングカメハメハが歩んだ同ステーブルの王道。GⅠを狙うにしては調整が控えめに映ったが、すべてはトレーナーの思惑どおりに進んでいる。
「ダービーを見据え、強い調教をしなくても、うまく能力を引き出せました。このくらい切れなくては、ダービーには立ち向かえませんよ」
この状態を維持でさえすれば、ダービーでも上位争いは必至だろう。
1馬身半差の2着には、ダイワバーバリアン(牡3、栗東・矢作厩舎)が健闘。
「東京コースは合う。大きな馬だから中山だともたつくけど、無理せずにすっと加速したし、コーナー2つだとリズム良く走れる」
と、蛯名正義騎手は感触を話した。ダービーはパスし、天皇賞・秋を視野に入れて調整していく予定だ。これまでは詰めの甘さに泣かされてきたが、多数の活躍馬を送り出している厩舎にあって、早くからスケールの大きさや将来性を買われていた逸材である。得意な舞台も発見でき、秋シーズンは目が離せない。
3番人気に推されたリルダヴァル(牡3、栗東・池江郎厩舎)も、力を十分に示している。3着に負けたとはいえ、マイル適性は高い。
「ジョッキーはうまく乗ってくれた。相手が強かったね。もっと力を付けて、秋に出直しますよ」
と、無念さをにじませながらも、池江泰郎調教師は前向きに話した。骨折を乗り越え、これが復帰3戦目。将来につながる経験となった。これから伸びる余地もたっぷり残されている。
ダノンシャンティと人気を二分したサンライズプリンス(牡3、栗東・音無厩舎)は、早めの競馬で4着に敗退した。
「ためても切れないタイプだから、前へ行ったんだ。時計勝負にも対応できると思っていた」
と、横山典弘騎手はさばさばと話す。一方、音無秀孝調教師は、悔しさを隠そうとしなかった。
「このペースで前へ行っては。よく粘ったよ。ダービーは、後藤浩輝騎手に頼んである。この結果を踏まえ、控える戦法で巻き返したい」
勝ち馬と同様、同馬も大目標は次。長く脚を使えるタイプだけに、ダービーでも侮れない一頭だ。
案外だったのが、9着に終わったエイシンアポロン(牡3、栗東・岡田厩舎)。マイルに変わっても、本来の破壊力を発揮できなかった。
「スタートから出していったが、スピードの乗りがひと息。内側から発散してくるものが伝わってこなかった」
と、岩田康誠騎手は首を傾げる。
「稽古の動きは相変わらず抜群なのに、実戦のペースに対応できていません。オーナーと相談してからになりますが、リフレッシュさせることになりそうです」
と、岡田稲男調教師。精神面が淡白になっている印象だが、まだまだ奥は深いはず。立ち直りを待ちたい。
青葉賞勝ちのペルーサ、プリンシパルSのルーラーシップと、皐月賞組以外からも有力馬が名乗りを上げている今年のダービー。それにダノンシャンティが加わって、超豪華なメンバーが揃う。NHKマイルCも、歴史的な対決に向けてのプロローグとなった。上位拮抗であるとともに、ハイレベルであることも間違いない。いまからわくわくして仕方がない。
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