安田記念/重賞メモランダム

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スター不在のマイル界。東京で行われる5週連続のGⅠシリーズの締めくくりとなる大一番とはいっても、前週にダービーの盛り上がりを経験しただけに、祭りの後といった雰囲気も漂う安田記念だった。

好天に恵まれたものの、入場人員は前年比で76・9%の6万4000人弱。レースの売得金も80・4%と落ち込んだ。GⅠ馬はキャプテントゥーレのみ。低レベルとの評価が定まっている一昨年の皐月賞のウイナーである。混戦必至ではあっても、心を躍らせるようなメンバー構成ではなかった。
大外枠のエーシンフォワード(10着)が逃げる意外な展開。上がり勝負では苦しいマイネルファルケ(18着)がプレッシャーをかけ、速いラップが刻まれた。前半4Fが44秒9、1000m通過は56秒3。日本レコードがマークされたNHKマイルCとよく似たペース。ただし、ラストの11秒7、12秒4の上がりが示すとおり、どの馬も突き放せない消耗戦となった。

インが荒れ始め、先行有利の情勢は薄らいだとはいえ、前日の準オープン(湘南S)で1分31秒7が飛び出した快速馬場。それ以上の、レコード更新も確実な流れだったのに、勝ち時計はスピリタスと同じだった。ちょっと物足りなさを感じる内容である。

これが39戦目となるショウワモダン(牡6、美浦・杉浦厩舎)が、初のGⅠ挑戦でみごとに栄光を勝ち取った。かつては重馬場でしかチャンスがないと思われていたタイプである。ダービー卿CTでの重賞制覇も、スローペースを味方にした感が強かった。前走のメイSは59キロの酷量を背負って、イメージを一新させる差し切り勝ちを演じていたとはいえ、今回は中1週での臨戦。ここに照準を合わせたローテーションともいえない。

「思い描いたとおりに脚がためられた。先週のダービー(ローズキングダムで2着)での経験を生かして、ぎりぎりまで追い出しを我慢。最後は馬も人も、体力を使い切った。最後は勝ちたいという気力だけ」
と、後藤浩輝騎手は感激の表情を浮かべた。位置取りも、追い出しのタイミングもぴたり。持てる力を最大限に発揮させた。
「どうして強くなったのかわからない」。ジョッキーは率直な感想を述べ、杉浦宏昭調教師も「なにか特別なことをしたわけではない」と、驚きを隠そうとしなかった。遅咲きの血が、一気に爆発したとしかいいようがない。4歳、5歳世代の脆弱さが異色の王者を誕生させた。

同馬の父は、99年の覇者であるエアジハード。ニホンピロウイナーがヤマニンゼファーを送り出して以来となる安田記念の父子制覇となった。決してトップ同士の配合とはいえなくても、社台ファーム生産馬は、オークス(サンテミリオン)、ダービー(エイシンフラッシュ)に続く3週連続のGⅠ優勝。名門の底力を痛感させられる。

半馬身差の2着には、スーパーホーネット(牡7、栗東・矢作厩舎)が追い込んできた。年齢的な衰えを懸念されたが、さすがにGⅠで2着が3回ある実力派である。ただし、今後の上昇度となると、勝ち馬以上に望みにくいことは確か。

3着のスマイルジャック(牡5、美浦・小桧山厩舎)も、上位2頭との力差はわずか。課題の折り合い面に進境がうかがえ、よく脚を伸ばしている。こんな競馬ができれば、いずれはもっと大きな勲章も手にできるだろう。

4着に終わったトライアンフマーチ(牡4、栗東・角居厩舎)は、GⅠとなると壁がある。
「馬なりでためながらも前々で競馬ができた。最高のかたちだったし、自分としては完璧な騎乗ができたと思う」
と、内田博幸騎手も満足そうに話した。だが、4歳牡馬では貴重な役者である。年齢を考えれば、まだひと皮むける可能性が残されていると信じたい。

注目の香港勢では、最も人気薄で、追い切りを中止するアクシデントがあったサイトウィナー(セン7)が最先着の5着に入線。これには驚いたが、フェローシップ(セン8)は9着、ビューティーフラッシュ(セン5)も11着に沈んだ。体調も精神状態も、本来のものではなかった。

1番人気に推されたリーチザクラウン(牡4、栗東・橋口厩舎)は、初めてもまれる競馬を経験。気性の危うさを露呈してしまった。14着に惨敗。安藤勝己騎手によれば、
「位置は想定したとおりだった。でも、馬ゴミに入ったことがない馬だから、他馬に寄られると気を遣い、内へ逃げようとしていた。折り合いが付いたとはいえ、逆に行こうとしなかったね。直線では、もうガツンとこなかったよ」とのこと。
レース前、橋口弘次郎調教師は、こう話していた。
「ブエナビスタなどがトップクラスで、いまは牝馬の時代だが、牡のスターがいないと競馬はつまらない。これからどんどん挽回していきたい」
並々ならぬ決意でこの一戦に臨んだだけに、落胆は大きい。それでも、「筋金入りの夢追い人」と呼びたくなる師だけに、次の戦いへと気持ち切り変えていた。
「まるで走っていないからね。よし、宝塚記念へ行こう」
素材は超一流。これで見限ることはできない。