【特別対談part2】「説教したい騎乗」の真意!日経新春杯から見るジョッキーの仕事の難しさ

"貫太は説教したい騎乗"……。今年1月の日経新春杯のレース後、笠松が生んだレジェンド・安藤勝己元騎手は自身のXにそう書き込んだ。かわいい後輩だからこそ伝えたい思いと、田口貫太騎手の考えに迫る。

"説教したい騎乗"の真意 日経新春杯の見方

-:先ほど少し話になりましたが、多くのファンの方が気になっているのは今年の日経新春杯の後、安藤さんがXに「貫太は説教したくなるような騎乗」と書き込んだことについてだと思います。ファンの方もリビアングラスの騎乗のどのあたりについて説教したいのか、気になっていると思われますので伺っていきたいです。

安:貫太も終わってから、自分でもうどこが良くなかったのか分かってるやろ?

貫:はい、自分でも分かります。

安:あれだけ押しても進まないんやから。ただ行きたい気持ちも分かる。これは難しいところもあって、調教師の先生の指示も守らないといけないという思いはあるし、どうしても迷いは生じることはある。

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日経新春杯で騎乗したリビアングラス

貫:僕も中央の重賞で初めて人気になる馬に乗せていただいて、しかも逃げて好走している馬でもあって、最初ハナに行けなかった時に焦りもあって。加えて向正面で外の馬に少し寄られるところがあり、リズム良く運べませんでした。

安:シンリョクカに寄られたところやな。レースの流れでの出来事の一つなんやけど、あれはかわいそうなシーンやった。ただ行けねえ形から強引に行こうとしたら馬のリズムだって崩す。

貫:矢作先生からの指示もありましたが、それ以上に自分の"逃げたい"という意思が強過ぎたのが反省点です。

安:さっきも言ったようにこれは難しいところもあるんや。指示は守らんといけない思いを頭に入れて乗るのは難しい。まあある程度歳重ねると指示もなくなるんやけどな。まあ俺は最後のほうには調教師から「アンカツ、頼むからもう少し前に行ってくれ…」と言われたことはある(笑)

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その頃には自分の身体が硬くなっているのは分かっとった。もう一つ前につけられれば勝てる可能性が高くなると分かってるんやけど、体が硬いから出していくと抑えきれずに折り合いを欠いちゃう。自分の思い通りの競馬ができなくなったこともあって、この頃から引退を考え始めたな…。それで、あの日経新春杯はどこらへんまでハナに行こうと思ってたんや?

貫:ゴール板の手前くらいです。ディアスティマも力のある馬なので、本来は友一さんを行かせてその後ろで脚を溜める形が良かったと思います。

安:欲を出したところもあったな。もちろん楽にハナに行けるんなら行ってええよ。ただあの行きっぷりで行かせてもいいことはない。

貫:「もしかしたらチャンスがあるかもしれない」とか、やはりそういういつもとは違う気持ちというか、自分を焦らせるようなことを考えてしまいました。反省点です。

安:貫太は特に今売り出し中なんやから。そういった"悪いところ"を見せちゃダメ。強引に行ったからって勝てないんやから、行けない時点ですぐ切り換えないと。今までと違う形の競馬をしたらエラく強い競馬をしたなんていう例はいくらでもある。レース後、矢作先生はなんか言ってたんか?

貫:「いらんこと言って色々考えさせてしまってごめんな、悪かったな」とおっしゃっていただきました。

安:矢作先生、ええ先生やな。

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貫:指示はありましたが、レースに乗っていたのは僕で、判断しなければいけないのは僕なので。言われたからやったでは話にならないと改めて思います。

安:馬はいい競馬をしたからって伸びるとは限らん。前が詰まって詰まってというレースでも走る馬はいっぱいおる。逆にスムーズなレースをすると馬が遊んじゃって走らないなんていうこともある。内のほうやったけど、外のディアスティマのほうが明らかに行きっぷりが良かった。行かして追走する形で良かった。

貫:確かに、あの時の友一さんは楽に、馬なりで逃げていきました。

安:欲を出すと競馬は本当に勝てないんや。思い出すのはビリーヴの最後のレース(03年スプリンターズS、2着)。本当に敏感な馬だったんやけど、俺が途中勝ちたいと思っちゃったから、道中グっとハミを噛んじゃった。その分最後ハナ差負け。競馬は道中が大事よ。

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-:それだけの繊細なコントロールをG1の道中で求められる、恐ろしくハードな仕事ですね。

安:そうやね。こういうのはユタカちゃんが上手い。ディープインパクトもそう。ちょっと促したらバーンとエンジン掛かって行ってしまうような馬。それをユタカが上手く抑えてな。走る馬に限って、エンジンをちょっと掛けたらバーンと行っちゃうもんなんや。

話を戻すけど、やっぱり欲を出しちゃダメ。昔フェートノーザンって馬がいたんやけど、厩務員が一生懸命、一生懸命頑張って調整してて、それを見ていたもんだから何とか勝たんといかんと思っちゃったんだよな。それがプレッシャーになった。かえって良くなかった。張り切って乗る時ほどいい結果は出ないもんや。走るのは馬。その点外国人ジョッキーはすごくリラックスして走らせるもんな。レース前から余裕がある。

貫:確かにそうですね。ゲート裏でも僕らは全然しゃべらないんですけど、外国人ジョッキーの皆さんはフランス語かなんかでワーってめちゃくちゃよくしゃべってます。

安:考え過ぎちゃいけないんだよな。ミルコ(デムーロ)なんかは考えちゃうタイプだから、真面目過ぎて上手くいかない時がある。今言ったことは言って簡単にできるわけじゃないんやけどな。ムチの持ち変えにしてもそう。この部分と、フォームがもう少しグッと沈むことやね、今後の課題は。

あとはもう気持ちの問題。道中が大事。どんないいジョッキーでもいつもいいレースができるわけじゃない。誰にでもミスはある。だからこそ安全運転をしちゃダメ。どう乗っても勝てるという馬なら別にいいけど、馬の能力を見極めるのが大事や。

"勝ちに行かないこと"が勝利への近道!?対談の続きは3月10日(日)に公開予定!