競馬YouTuberとして一躍名を挙げ、各媒体に引っ張りだこの佐藤ワタルが、地方&海外レースを展望。若くして人並み外れた知識量、分析力を披露する。
【凱旋門賞】エネイブル3度目の戴冠を阻止する馬は…!?
2020/10/3(土)
凱旋門賞(日本時間10月4日(日)夜23時05分発走)の舞台となるフランス・パリロンシャン競馬場は、日本人にとっては最も馴染みのある海外の競馬場かもしれない。ヨーロッパ最大のレースにして、秋シーズンの総決算である凱旋門賞が行われるこの競馬場は、過去、日本から海を渡った名馬たちの夢を阻んできた。
2015年の凱旋門賞開催後、2年に渡る改修の末、パリロンシャン競馬場として一昨年の4月にリニューアルオープンしたパリロンシャン競馬場。
凱旋門賞が開催される12Fは向正面中間から3コーナーまで上り坂が続き、そこから下り坂が始まる。構造自体は京都競馬場の外回りコースと近い。ただパリロンシャン競馬場の場合は 4コーナーに長めの直線、通称『フォルスストレート』が控えている。4コーナーから直線、ゴールまでも500mあるため、フォルスストレートで動くと最後脚が止まってしまう。早仕掛けは禁物だ。
パリロンシャン競馬場は直線にオープンストレッチという仮柵が設置されている。直線に入ると内が大きく開くこのコース設定を今年は取り入れるとのこと。これまで以上に内枠は有利になってくるだろう。
改修されたパリロンシャン競馬場
秋のパリは雨が降りやすく、ドロドロの馬場になることが多いため、改修されてコースの水はけが良くなったことは日本馬にとってはプラスかもしれない。逆に、今までよりスピードが求められるコースに変貌したとも言える。
過去の凱旋門賞を遡ると96年にエリシオが逃げ切り勝ちを果たしているが、滅多に逃げ切りはない。フランス競馬は他の欧州各国の競馬に比べて、逃げることを嫌がる特色がある。逃げるよりは、前に風除けとして馬を置いて運ぶことを求める調教師も多い。
もちろん凱旋門賞では各陣営がペースメーカーを用意する。ここまでは他の欧州各国と同様。しかし5、6頭立てのG1が珍しくない中でも凱旋門賞は頭数が揃いやすい。ペースが流れるとはいえ、内が密集し、かといって外を回してもタフなコース設計の影響で脚をなくしてしまう。サバイバルレースとなりやすい。
長い直線も各馬のスタミナを奪う
以前は地元のフランス勢、特に3歳牡馬が斤量差もあり有利だったのだが、近年フランス牡馬のレベルは下がりつつあり成績は落ち始めている。それによって英国勢、アイルランド勢に押され気味だ。
斤量設定が3歳牡馬56.6kg、3歳牝馬55kg、4歳以上牡馬59.5kg、4歳以上牝馬58kgと、牝馬は牡馬に比べて1.5kg斤量が軽い。一昨年は牝馬エネイブルが連覇達成。2着も牝馬のシーオブクラスであった。今年も牝馬の激走に要警戒と言える。
・牝馬が強い
近10年中、牝馬が7勝。古馬だと58kg、3歳だと55kgで出走できる牝馬の斤量恩恵は、タフなパリロンシャンコースで大きな影響を与える。
・前走2400m組中心
近10年、パリロンシャン競馬場(ロンシャン競馬場)開催は8回あって、その内7回で前走2400m(芝12F)を走った馬が勝っている。スタミナを問われるコースだけに、距離実績があるほうがベター。
・フランスのファーブル厩舎の一発に警戒
過去に凱旋門賞を8度制したフランスの名伯楽・A.ファーブル調教師。昨年ヴァルトガイストで久々に凱旋門賞を制しているが、14年に11番人気フリントシャーが2着、クロスオブスターズが17年に8番人気2着、18年に9番人気3着と、"穴"として魅力十分。
◎ストラディバリウス(馬番6、ゲート番⑭)
現役最強ステイヤーといえばこの馬。3200mの長距離英G1グッドウッドCを4連覇し、4000m近い英G1アスコットゴールドカップを3連覇。長距離界に敵なし状態だ。ここ2年のアスコットゴールドカップはかなり馬場が重たかっただけに、スタミナとパワーは間違いなくメンバートップクラス。
2400mは今年英G1コロネーションC3着、仏G2フォワ賞2着と勝ち切れていないものの。どちらも堅い馬場で直線でも切れ味が問われる展開だった。天気予報を考えると日曜の凱旋門賞が良馬場で行われる可能性はかなり低く、スタミナ、パワーの問われる条件ならば浮上する馬だ。女傑エネイブルとは同厩舎でこれまで当たることもなかったが、凱旋門賞を知り尽くすペリエ騎手を背に打倒・女傑を目指す。
○エネイブル(馬番8、ゲート番⑤)
G1を11勝、凱旋門賞を2度制覇している稀代の名牝。凱旋門賞3連覇を狙った昨年は重たい馬場の一戦となり、早めに先頭に立って押し切りを狙ったものの最後はヴァルトガイストに差され2着。歴史的偉業にあと一歩届かなかった。かなり厳しい馬場状態を考えたら負けて強しと言っていい。
昨年と同じローテーションで夏のエクリプスSで復帰すると、今年はここまで2、1、1着。ガイヤースを捕まえきれず2着だったエクリプスS、圧勝とはいえ3頭立てのキングジョージ、同じく圧勝とはいえ相手関係が緩いセプテンバーSと、内容自体はそこまで強調できるものではない。力は最上位で重視しなければいけない存在だが、昨年のように他馬の大駆けに遭って2着はありそう。最近ゲートが悪いのも懸念材料だ。
▲ソットサス(馬番7、ゲート番④)
面白そうなのがこの馬。昨年の仏ダービー馬で、凱旋門賞3着の実績がある。仏ダービーはレコード勝ち、凱旋門賞は道悪で3着と、どのような天気になっても戦える点は強み。今年は復帰戦の仏G2アルクール賞こそ4着に敗れ、続く仏G1ガネー賞を辛勝、G2ゴントービロン賞2着などパフォーマンスが低調だったのだが、前走好メンバーの愛チャンピオンSで見せ場を作る4着。復調ムードが漂う。
今回はホーム・フランスでの競馬。それに加えて距離延長もいい。ヴェルメイユ賞2着ラービアーの主戦も務めるC.デムーロ騎手がソットサスを選択したように、こちらのほうが勝算アリと見ているのではないか。
☆インスウープ(馬番12、ゲート番①)
前走はパリ大賞でモーグルの2着。高速馬場の中よく追い込んだ内容だった。評価したいのは2走前のドイツダービー。直線後ろからジワジワ伸び、ラスト、ラップの落ちるところでもう一伸びしたように持続力はメンバー上位のものがある。
相手関係は鍵となるが、道悪は苦にしない。内枠からロスなく運んで直線進路を確保できれば面白い競馬になるかもしれない。
△ペルシアンキング(馬番1、ゲート番⑦)
穴としての魅力を感じる1頭。これまで12戦して連対を外したのはわずか1度だけという安定感を誇る馬で、これまでに今年のイスパーン賞など仏G1を3勝している。懸念されているのはこれまで2400mに出走したことがなく、父がマイラーのキングマンであることだが、母系を見ると距離が持っている馬が並び、何よりこの馬自身がパリロンシャン競馬場で3戦3勝である点は見逃せない。
※当初当欄の予想に入れていた△モーグル、△ジャパンらA.オブライエン厩舎の4頭は出走取消となりました。長期海外遠征2年目のシーズンを過ごしているディアドラ(馬番9、ゲート番⑫)は、約4ヶ月ぶりの実戦だった2走前のエクリプスSで差し込めず5着。連覇を目指したナッソーSは好位から伸びきれず7着と今一つのレースが続いている。昨年の勢いがなく、加えて今週のパリの天候が良くないことを考えれば厳しいレースとなりそうだ。
プロフィール
佐藤ワタル - Wataru Sato
1990年山形県生まれ。アグネスフライトの日本ダービーを偶然テレビで観戦して以降、中学生、高校生、大学生と勉学に勤しむ時期を全て競馬に費やした競馬ライター。『365日競馬する』を目標に中央、地方、海外競馬の研究を重ねている。ジャンルを問わない知識は、一部関係者に『コンビニ』とまで評されている。早稲田大学競馬サークル『お馬の会』会長時代に学生競馬団体『うまカレ』を立ち上げたり、北海道の牧場などに足繁く通うなど、若手らしい行動力を武器に、今日も競馬を様々な角度から楽しみ尽くしている。現在はサラブレ、一口クラブ会報などでも執筆中。血統派で大の阪神ファン。甘党でもある。