
14番人気でVの再現を 意外性が持ち味のタガノアザガル
2015/5/3(日)
担当者すらビックリの激走
-:NHKマイルC(G1)に出走するタガノアザガル(牡3、栗東・千田厩舎)なのですが、厩舎の重賞初制覇がこの間のファルコンSだったのですね。おめでとうございます。
市丸善一調教助手:ありがとうございます。
-:14番人気でしたが、手応えの方はいかがでしたか?
市:僕は中京競馬場には行ってなかったのでね(笑)。
-:同じ日にエクストラゴールド(牡4、栗東・千田厩舎)で中山遠征していたという。
市:あちらに行っていたので、レース自体もあとで観たのです。まさかああいうレースが出来るとは思っていなかったので、すごくビックリしました。
-:終わってから、お祝いメールとかはたくさん入っていましたか?
市:電話やメールが一杯入っていましたね。

▲愛馬の重賞制覇の瞬間を見届けられなかった市丸助手
-:それを知らずに、エクストラゴールドの上がり運動をしていたと。
市:上がり運動をして手入れをしていたら、一緒に中山へ来ていた滝川さん(調教助手)が「こんな所に来ている場合ちゃう」と言うから、「どうしたんですか?」と。まさか滝川さんが(フラワーCのジュエルメーカーで)勝ったんかなと思って、俺も写真行った方が良かったんかなと思って聞いたら「ちゃうねん、向こうが勝ったやんか」と。ホンマに勝ってたからビックリして。
-:最初は同じ厩舎のスタッフである滝川さんにイジられていると思っていたら、それが事実であったと。
市:ホンマに事実やったのでね(笑)。
-:行っていたのは福丸調教助手だけで、先生(調教師)も中山にいたと。
市:それだけに、重賞ながらも口取りは寂しい感じでしたね。
-:その前のクロッカスSでも9着でしたし、その前も10着でしたからね。
市:朝日杯FSの10着は、初めてのG1でしょうがないですね。東京の9着はよく分からない負け方だったのです。あまりにも離されているし。
-:あの時は、馬場がちょっと緩かったですからね。
市:だいぶ緩かったのも事実ですね。前の日が大雪だったから。
-:ただ、勝ったファルコンSの時の馬場も結構タフな馬場でした。
市:そうなんですよ。だから、あれが不思議でしょうがないんですよ。

▲ファルコンSの口取り風景
競馬の上手さがセールスポイント
-:厩舎での評価としたら「腰が甘い、パワー不足」などと言われているアザガルですが、逆にいざレースへ行ったら、どちらかと言えばスタミナタイプの臭いがしますね。
市:スタミナというか、持続力を根性で補っていうようなところがあるので。
-:叩き合いに強いと。
市:そういう形に持って行ければ強いのかなと。
-:乗っている感触では、どういうタイプですか?
市:乗っている感じはスピードがありますよ。この厩舎にはあまりいないスピードタイプかなと。ゲートとかもむちゃくちゃ速かったですからね。
-:ただ、血統的にはお父さんがバゴという、それほどスピードと言われてもピンと来ない、どちらかと言ったら、長距離、スタミナを感じるのですが、体を見ると手先もそんなに軽くないじゃないですか?
市:脚が短いしね。やっぱり競馬が上手いですよね。ゲートを出るにしても、ポジションを取るにしても。
-:逆に、緩急を求められる方が辛いと。
市:そうかもしれないですね。ある程度ペースが流れて、その中で辛抱しながら行くというのが、一番良い流れだと思いますね。

-:クロッカスSからこの間のファルコンSまでで、直前にも馬体を見せていただきましたが、かなり良くはなっていましたものね。
市:馬自体は、坂路を上がっていても、いつもと手応えが違うという感触はありましたね。
-:そのファルコンSを経て、もう1ランク上昇している感じはありますか?
市:上昇という意味では少ないですが、前のデキと変わらない感じでは来ています。
-:府中の1600mという、ごまかしも一切きかないコースです。
市:きかないですね。馬にはしんどいレースになるでしょうが。
-:担当者としては気楽な立場ですか?
市:僕としては、そんなに人気もしないでしょうしね。
-:もちろん今度は東京へ行かれますよね。
市:もちろん行きます。
キャリアの中でも舞台は絶好
-:不思議な縁で、千田厩舎と府中競馬場は好相性で、片山助手のヤマニンウィスカーが逃げ切って大波乱になって、根岸助手のジョヴァンニも勝ちましたし、ダノンプログラマーも。しかも、全部人気がないという。
市:ええ、東京のメインレースで穴を開けるという。そうなってくれるといいですね。
-:馬体重の変化はありそうですか?
市:あんまりないですね。この馬は競馬の経験もそうですが、色々な競馬場に輸送しているのでね。新潟も行っているし、小倉も行っている、この間は東京にも。輸送も案外慣れているみたいで、そんなに変動はないですね。
-:府中までの輸送で、ライバル達が気を使えば、アザガルもキャリアを活かして。
市:そうであればいいですね。
-:パンパンの良馬場になった時のこの馬の走りというのは、やっぱりスピードがあるということだから、逆にプラスになるかもしれませんか?
市:どちらかと言ったら、やっぱり良馬場の方が良いのは良いですね。
-:ファルコンSの中京競馬場とサイズが違うぐらいで、形態は似ている競馬場ですからね。
市:そういう意味では走ってもおかしくはないですね。
「ひょっとしたら、ホンマに真剣に走っているのかなと思うくらい、普通にすぐに息が入っていたから。しかし、この間のファルコンSのことを聞いたら「だいぶハァハァ言うてた」と。ああ、真剣に走ったんやなと。走れるコンディションになってきたのかもしれないですね」
-:改めてあの叩き合いのファルコンSを観て、思っているよりも強いなという印象を受けませんでしたか?
市:いや、思いましたよね。結構渋太いなと。交わされるのかなというところから粘っていますからね。あれだけ短い脚でね。
-:回転数で補っている訳ですからね。その分、帰ってきてからの疲れはなかったですか?
市:案外いつもケロッとしているんですよね。新潟に行った時もそうなのですが、眼洗いが終わったらすぐに息が入るぐらいだから、真剣に走っているのかな?ということがよくあるのですよね。
-:ちょっとずるいタイプかもしれないと。
市:ひょっとしたら、ホンマに真剣に走っているのかなと思うくらい、普通にすぐに息が入っていたから。しかし、この間のファルコンSのことを聞いたら「だいぶハァハァ言うてた」と。ああ、真剣に走ったんやなと。
-:もしかしたら、ようやく本気で走れるコンディションになっていたと。
市:そうかもしれないですね。

馬優先が千田厩舎のモットー
-:ファンの人は知らないかもしれませんので、千田厩舎の調教パターン、厩舎の特色を教えて下さい。
市:やっぱり“ユックリ”ですね。馬の方に合わせていくというか、あんまり馬に負担を掛けません。その分、時間帯が他と違うので、ある程度馬場が荒れた中で乗っているから、そういう意味で、時計以上の負荷は掛かっているかもしれないですね。
-:あんまりバリバリ仕上げることがない千田厩舎から、2歳重賞戦線に駒を進めるタガノアザガルというのを考えると、この馬自体が持っている素質の高さの証明ですね。
市:そうですね。結構、素質があるのかもしれないなと。

4/29(水)、CWコースで古馬1000万下のショーグンらとの併せ馬
5F69.9-51.1-40.4-12.7秒を馬なりでマークし、同入している
-:パドックで見るファンの人に、こういう時が好調にサインだよというのがあったら教えて下さい。
市:やっぱり人を引っ張るぐらいグイグイ歩いている方が良いのは良いと思いますね。毛艶や体型に関しては、前からそんなに変わっていないので。
-:逆に言ったら、他の有力馬を見た後にタガノアザガルを見ると、脚の短さなどが気になるかもしれませんが、それはこの馬はこういうものだと思えばいいですね。
市:そこは気にしないでください。回転数で補っているから。
-:最後に応援しているファンにメッセージをお願いします。
市:府中の1600mになると、前回よりもしんどいレースになるでしょうが、観ている人を楽しませるようなレースをしてくれると思うので、応援よろしくお願いします。
-:14番人気で勝った馬をもう1回G1で買うとなると、後追いみたいな臭いがして買いにくいのは事実ですが、展開が嵌まった時にアッと言わせるかもしれません。
市:いつも人気はしていないですよね。今回も気楽な立場で一発を期待したいですね。
-:直前の状態を競馬ラボのコラムでも教えてください。長々ありがとうございます。
市:こちらこそ。ありがとうございました。
(取材・写真=高橋章夫 写真=競馬ラボ特派員)

プロフィール
【市丸 善一】Yoshikazu Ichimaru
攻め専として栗東の名門・池江泰郎厩舎に所属。その後、持ち乗り助手に転身し、ローズSを勝ったレクレドール、ラジオNIKKEI杯2歳Sを勝ったサブジェクトなどの重賞ウイナーを担当した。池江泰郎厩舎の定年、解散後に千田輝彦厩舎へ転厩。開業5年目の今年、担当のタガノアザガルがファルコンSを勝って重賞初勝利。名門厩舎で培った豊かなキャリアを生かしてNHKマイルCでのG1初制覇を狙う。
【高橋 章夫】 Akio Takahashi
1968年、兵庫県西宮市生まれ。独学でモノクロ写真を撮りはじめ、写真事務所勤務を経て、97年にフリーカメラマンに。
栗東トレセンに通い始めて18年。『競馬ラボ』『競馬最強の法則』ほか、競馬以外にも雑誌、単行本で人物や料理撮影などを行なう。これまでに取材した騎手・調教師などのトレセン関係者は数百人に及び、栗東トレセンではその名を知らぬ者がいないほどの存在。取材者としては、異色の競馬観と知識を持ち、懇意にしている秋山真一郎騎手、川島信二騎手らとは、毎週のように競馬談義に花を咲かせている。
毎週、ファインダー越しに競走馬と騎手の機微を鋭く観察。馬の感情や個性を大事に競馬に向き合うことがポリシー。競走馬の顔を撮るのも趣味の一つ。
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