GPホース・ゴールドアクターに死角は?未知の条件で真価を問う一戦へ
2016/4/24(日)
陣営すら驚くほどの成長と適応力
-:ゴールドアクター(牡5、美浦・中川厩舎)をデビュー時から担当されているということでお話を伺いたいのですが、当欄で取り上げさせてもらうのは初めてです。デビュー当初の印象から教えていただけますか?
二藤部洋次郎調教助手:よろしくお願いします。当初から馬格も良くて、本当に見栄えのする馬。乗った感じも柔らかくて、厩舎に来たての僕がこんな良い馬をやっても良いのかな、というのが正直な思いでした。
-:見栄えや乗り味もいいのに、若手ながら担当を任されたということは、今をときめくスクリーンヒーロー産駒も当時は決して評価が高くない種牡馬だったこともあるのでしょうか。
二:なにせ初年度ですからね。今やモーリスなど凄いですよね。
-:ちなみに、スクリーンヒーローは美浦に在籍して、ジャパンカップを制しましたね。お父さんとゴールドアクターで似ている部分などは感じられますか?
二:僕自身はハッキリとわかりませんが、聞けば「スクリーンヒーローは非常に乗りやすかった」とのことで、そういうところじゃないですかね。あとは、本当に「口がうるさい」というか、噛みついてきます。スクリーンヒーローの担当者だった方がたまに美浦へ来られたりするのですが「スクリーンヒーローも口がうるさかった」と言っていたので、そういうところも似ているんじゃないかと思います。
ゴールドアクターに揺るぎない信頼を寄せる二藤部助手
-:先ほど、追い切り前に馬場入りの仕草を観ていても、ちょっとチャカついているというか、少し元気が良いのかなと。
二:気が入るんですね、やっぱりスイッチが。馬房とかでは大人しいですが、走り出しはそういうところがあると思いますけどね。でも、レースに行ったらあれだけ折り合いが付くのでね。
-:3歳時は菊花賞③着という実績もありましたが、当時と今を比較して、大きく変わってきた部分、当時足りなかった部分というのはどういったところですか?
二:順当に体の幅が大きくなって、背腰からトモにかけてシッカリしてきましたね。それによって、パワーが付いたんじゃないですかね。まだ(3歳時は)線が細くて、ひ弱さがあったので。
「当時から古馬になったら、33秒後半くらいは出せるんじゃないかなと思っていたのですが、『まさかあれほどの脚を使うとは。こんなに良い脚を使えるようになったんだ』と驚かされましたね」
-:それでも、直近の立ち写真を見せていただいたのですが、もっともっと良くなってきそうな部分も少し感じました。成長の余地はまだまだありますか?
二:ええ、まだ緩さが残っているというか、もう少しシッカリしそうな感じはありそうですね。まだ伸びしろがあるのか、と驚かされますよね。
-:これまでアルゼンチン共和国杯のようなけっこうな道悪でも勝ち、有馬記念、日経賞のようなスローの上がり勝負でも勝ってきました。普段、乗られている中でこの馬の本質的な適性、ベスト条件はどういったところと見ていられますか?
二:当初は決め手勝負では敵わないような馬でしたね。というのも、長く良い脚を使うタイプなので、ある程度ペースが流れてくれた方がアクターにとっては良いと思ったのですが、パワーが付いてきてから、例えば去年のオクトーバーSでは33秒4の上がり最速でした。当時から古馬になったら、33秒後半くらいは出せるんじゃないかなと思っていたのですが、「まさかあれほどの脚を使うとは。こんなに良い脚を使えるようになったんだ」と驚かされましたね。それでも、本質的にはペースが少し流れた方が良い馬だとは思いますが。
-:おそらくファンとかの見立ても、そういうイメージだったのかなと思います。
二:そうですよね。時計が掛かる方が良いのかなと。父の父がグラスワンダーなので、中山みたいなコースの方が走るんじゃないのかなと。でも、東京とか京都とかの高速馬場で結果を出したのはやっぱり凄いなと。どんな場所でも適応できる良さがありますね。
距離適性はセンスと乗り方でカバー
-:この馬のフットワーク、走り方のタイプを、馬に乗ったことのないファンに分かりやすく伝えるとしたらどういうタイプでしょうか?
二:重心を低くして走っていますね。本当に全身が弾むようにして。あんまり跨ったことがないですね、こういう感じの馬は。
-:先ほど先生にも伺ったところ、もう課題に挙げていたのが「瞬発力勝負になった時、距離がどうなのかな」ということでした。
二:3歳時はステイヤーみたいな体つきだったのですが、段々そうでもなくなってきたんですよね。
-:加齢によって適性が出てきたということですか?
二:(吉田)隼人騎手も「本質的には2000~2500くらいの感じの馬なんじゃないかな」と言っていました。3歳時はスピードが足りなかったですが、古馬になって力が付いてきたので、決して融通が利かない方ではないのかとは思っていますが、課題といえばそこですね。
-:では、菊花賞3着という実績でも、課題は距離と。
二:ただし、立ち回りの良さと折り合いの良さがありますからね。長いところはずっと使ってきている馬なので、こなせない訳ではないと思います。それに、春の天皇賞は「距離というよりも枠」みたいな傾向もありますからね。上手く経済コースをロスなく来られれば、結果は出ると思うんです。
「『早く走らせろ!』という感じなんじゃないですかね(笑)。調教ではそうでもないですが、競馬に行って雰囲気が変わるとそうなりますね」
-:そういう意味では、他馬よりもある程度ポジションを取れる強みというのは、この馬のセールスポイントですね。
二:そうですね。テンから行けて、良いポジションに収まってくる馬なので、そこはセールスポイントですね。ただ、あまり馬込みに入って競馬をしたことがないので、上手く捌けるのか。そういう時にどうなのかなという思いもありますね。
-:ただ、立ち回りの良さと長距離戦でバラけるレース展開になれば、そこまで心配する材料ではないのかもしれませんね。あとは、久々の輸送ですか?
二:いや、輸送は大人しいので、危惧はしていないんですけど。
-:聞けば、輸送は大人しくて、普段はちょっとチャカつくようなところもあったり、レースの序盤でもそういうところがあるという、少しオンとオフがあるタイプですね。
二:装鞍所とかパドックでも、それは出しやすいですね。前回の日経賞も休み明けだったので、けっこう気が入り過ぎていた部分もあるのですが、1回使ってガスが抜けた感じなので、今回はそこまでカッとなるほどでもないと思います。
-:日経賞を使って、一度使っての上積みを見込んだ状態で持っていけそうな雰囲気はありそうですね。ちなみに、パドックや装鞍所でカッとなるゴールドアクターの気持ちを、担当の二藤部さんが代弁すると、どういうことを考えているんでしょうか?
二:「早く走らせろ!」という感じなんじゃないですかね(笑)。調教ではそうでもないですが、競馬に行って雰囲気が変わるとそうなりますね。
グランプリホースとして臨む大一番
-:2週前追い切りは菅原ジョッキーが乗られましたね。
二:これが初めて乗ったんですよ。いつも厩舎を手伝ってくれているので。でも、問題ないでしょう、乗りやすい馬なので。
-:菅原ジョッキーの感触はいかがでしたか?
二:「乗りやすかった」と。調教でも前回はハミにもたれる感じがあったのですが、「そこら辺はどうだった?」と聞いたら「大丈夫です」みたいなことを言っていたので。
-:名コンビとして定着しつつある吉田隼人騎手ですが、前走後はどういうコメントを残していましたか?
二:「道中あまり(ハミを)噛み過ぎないようにして欲しい」というオーダーはあったのですが、緩さがだいぶなくなっているので、その分、ハミ受けも良くなりましたからね。また、レース前に確認してもらうと思います。
-:ハミ受けはいつも接しておられる方次第といいますか、重要な任務でしょうか?
二:そうですね。ハンドルとアクセル、ブレーキという感じなので、やっぱりそこが硬かったり、動かしにくかったりすると乗りにくさが出てくるので、そういうところを良くしておけば、乗りやすくはなると思いますね。
-:そういう意味では、これから色々な馬と巡りあっていく二藤部さんにとっても良い勉強ですね。
二:そうですね。毎日が勉強です。
-:昨年まではチャレンジャーとして挑むレースばかりでしたが、今年の天皇賞(春)は主役として向かう立場にあると思います。未知の距離でプラスになる面、不安な面など、様々語っていただきましたが、改めてレースへ向けての意気込みを聞かせていただけますか?
二:連勝中ですが、改めて挑戦者の気持ちで頑張って来たいですね。応援お願いします。
-:ありがとうございます。
中川公成調教師のコメント
もともとは瞬発力で見劣るところがあった馬が成長と共にスローペースにも対応出来るようになり、前走もスローペースを競馬の巧さでカバーしてくれましたね。子供っぽいところは今でもありますが、成長してきてくれていますよ。日経賞前も使えばもっと良くなるだろうという状態でしたが、戦後も良い状態で来られています。課題といえば、現状で距離がこなせるかどうかということと輸送でしょうか。距離は菊花賞で走ったとはいえ、当時と馬が違いますからね。今回もベストを尽くせるように頑張りたいですね。
吉田隼人騎手は「先生」と呼ぶゴールドアクターと二藤部助手
二藤部助手自身はアクターと呼んでいるそう
プロフィール
【二藤部 洋次郎】Yojiro Nitobe
1984年生まれ、現在32歳。中学2年から乗馬を始め、高校では馬術部に入部。当初はジョッキーを志したが、体格面から断念。高校卒業後は美浦村にある育成牧場のミホ分場へ。その後、トレセンで勤務し始め6年目。約2年半前から中川厩舎へやってきた。
転厩当初に兵庫チャンピオンシップを制したエキマエなどを担当。その3ヶ月後にゴールドアクターを担当するという強運の持ち主。厩舎スタッフとしてのモットーは「競走馬が順調にレースに使えるように、とにかく馬が無事にいるように意識しています」と語る。