2016年の無念から涙のタイトル獲得 念願の大舞台がラストラン ララベル
2018/2/14(水)
大井が生んだ女傑がフェブラリーSに挑む。抜群の素質を持ち将来を嘱望されながら、体質の弱さから多くの挫折を経験した砂の女王・ララベル。昨年のJBCレディスクラシックでついに女王の座についた。「順調なのが不安」、そう3年半を振り返る苦楽を共にした大井競馬・荒山勝徳調教師に、素顔、そして『涙のインタビュー』のワケについて伺った。多くのファンに愛された『魔法少女』は、大井競馬から羽ばたき、今、巣立ちの時を迎えようとしている。
-:まずはララベル(牝6、大井・荒山勝厩舎)がNAR4歳以上最優秀牝馬、受賞おめでとうございます。厩舎開業10年目のビッグタイトルとなりましたね。
荒山勝徳調教師:ありがとうございます。年度代表馬はヒガシウィルウィンとの一騎打ちだと思っていました。ララベルは2歳最優秀牝馬、3歳最優秀牝馬とタイトルを獲ってきて、今年は年度代表馬を獲りたいと思っていましたが、惜しくもそちらは逃してしまいました。ただ4歳以上最優秀牝馬を獲れて良かったです。
-:昨年のJBCレディスクラシックは外の3番手から運びましたが、これは当初の作戦通りだったのでしょうか?
荒:ララベルの場合は大輔(真島大輔騎手)にすべて任せているんです。いつもレース前の指示は出していないんですよ。
-:早め先頭に立つ勢いで4コーナーを回り、直線ではプリンシアコメータとの壮絶な叩き合いになりましたね。『冷静に見ていられなかった』とおっしゃっていました。
荒:ちょうど社台ファームの斎藤調教主任と観ていましたが、二人でテーブルを叩きながら「ララぁ!ララぁ!」と叫んでしまいました……。気づいたらテーブルの上にあったコーヒーなどの飲み物が全部こぼれて、テーブルの上がジャブジャブになってしまっていました(笑)。僕らの見ているところからだと横からの画面だったので、(プリンシアコメータを)挟んだかどうかは全然分からなかったんです。それで斎藤主任と勝った嬉しさから抱き合って喜んで、泣きながら検量室前に戻りました。
中央勢を破ったJBCレディスクラシックの口取り(左が荒山師)
-:その後、優勝調教師インタビューで、涙を流して答えられている姿は非常に印象的でした。
荒:あの時はまさか泣くとは思わなかったんです(笑)。表彰式が始まる前から大輔が涙ぐんでいて、僕もそれを見てもう……。表彰式で一度は落ち着いたのですが、記者の前に行ってインタビューが始まった瞬間、もう我慢できませんでしたね。色々なことが全部こみ上げてきて……。
-:「ララベルは常に絶好調とは言えない中で、いつも一生懸命に頑張ってきてくれた」という言葉が非常に印象的でした。
荒:ララの場合は普通の馬と違うと言いますか、「今回はいい!」という状態で使えたことがない馬なんです。2016年のJBCレディスクラシックの時も、「この状態だったら中央馬たちと互角に戦えるだろう」という状態に初めてなったのに、競走除外になってしまったものですから。1年越しのリベンジというわけではないですが、1着という最高の結果で終わったことがララらしいなと思いました。
-:競走除外は確か右トモの不安だったと記憶しています。
荒:そうです、右トモの弱さはデビューの前からずっと抱えているものなんです。身体も大きいですし、クラスが上がったらある程度攻めないといけない、でもちょっとでも攻めようとすると右トモがおかしくなってしまうから、そこまでピッチを上げられない。上げられないから獣医さんからも「心臓が重い、これでは厳しい」と言われてしまっていたんです。そんな状態でも勝ってしまう。これの繰り返しだったんです。
-:順調に調整が進んでいての除外だけに、相当な悔しさが残ったのではないでしょうか?
荒:「うわ、本当に?」という感じでしたね。レース2日前に右トモ不安を発症したのですが、レース前日に一度僕が乗って出否を判断することにしたんです。今だから言えますが、乗ってみて「正直出られなくはないな」と思ったんです。でもおかしいのはおかしい。ここで無理をして使うことはないと判断しました。
「今回はいい!という状態で使えたことがない馬なんです。2016年のJBCレディスクラシックは競走除外、去年はレースの前々日にスクんで歩けなくなってしまったんです。でも、これがララベルだとも思いました」
-:昨年のレディスクラシックは順調に使えたのでしょうか?
荒:今回も非常に状態は良かったんです。この馬なりに右トモの状態も良かった。ある程度攻めないと交流G1では戦えませんから、相当攻めたんです。そして迎えた最終追い切りの時に頭をよぎったのは2016年でした。順調に行き過ぎているのではないかと。そしたらレースの前々日に、調教から上がってきたらスクんで歩けなくなってしまったんです。でも、これがララベルだとも思いました。
-:レース前のコメントは「不安がないことが不安」でしたが、そういう意味が込められていたのですね。
荒:そうです、そうです。今まで不安を抱えて競馬を勝ってきた馬で、不安がなかった2016年が除外になってしまったので。
-:そして見事に勝利。1年越しの夢を叶えた分の喜びと、ここまでの苦労からの涙だったのですね。
荒:嬉しかったですね。色々な方々に祝福していただきました。その後行われたJBCスプリントでは、勝ったニシケンモノノフに騎乗していた横山典弘騎手が戻ってきてから真っ先に僕のところに来て、握手とハグをしました。ニシケンモノノフの庄野調教師より先に(笑)。
-:レース後、反動はありましたか?
荒:ところが、使い終わってからも状態が良かったんです。こちらが思っていた以上にダメージがなかったです。
-:では前走のTCK女王盃はいい流れのまま迎えられたのでしょうか?
荒:いい状態で迎えられると思ったのですが、逆に状態が上がり過ぎてしまったので少し緩めました。レースまで状態を維持できないと思って。その分少し重かったかもしれませんね。
-:TCK女王盃は内枠ながら外の2番手と揉まれない位置を取れましたが、4着に終わってしまいました。このレースについてはどうご覧になったのでしょうか?
荒:最後甘くなったのは少し重かった分もあると思いますし、1800mはやはり少し長い気がします。本当は左回りの1600mがベストだと思うんです。フェブラリーSも川崎の1600mでやってほしかったですね(笑)。
-:レース後の反動はいかがでしたか?今回は今までの競走生活で一番間隔が詰まっていますが。
荒:股関節に弱さがあるので、不良馬場を走ったことでレース後乗り出してから少し疲れを感じました。ただ今回はフェブラリーSまで時間が足りないので、後ろだけ軽くショックウェーブを掛けて休ませました。7日の一週前追い切りではスイッチが入ったようで、右トモも全然大丈夫。獣医さんも「前回より心臓は遥かにいい」と言ってくれています。
-:初めての東京競馬場となりますが、そこについてはいかがでしょう。
荒:それについてはまったく心配していません。初めての場所でも関係ないタイプなので、スクーリングもなしで大丈夫です。
-:今回は初めての芝スタートとなります。
荒:そこが不安ですね。一瞬ですし、大丈夫だとは思っているのですが……。やってみないと分からないですね。メンバーは強いですが、左回りのマイルは合っていると思います。JRAのG1というスゴい舞台で、期待はもちろんありますが、無事に走って、無事にお母さんになってほしいという気持ちもあります。