6歳ベテラン牝馬デンコウアンジュ 3年半ぶりのタイトル引っ提げ3度目の正直へ
2019/5/5(日)
6歳にして遂に完成か。デビュー3戦目のアルテミスSでは、後のG1・2勝馬を破り、重賞初制覇。豪快な末脚のイメージからも翌年の牝馬3冠路線でも注目を浴びたデンコウアンジュ。しかし、その後は勝ち星に見放される日々が続き、連対は2017年のヴィクトリアマイル、僅か1回だけ。それが6歳を迎えた前走の福島牝馬Sで久しぶりの重賞勝利をマーク。復活の狼煙を挙げた。前走の勝因は?それともフロックだったのか?3度目の挑戦となる上半期の女王決定戦は実績のある東京マイルの舞台で、「一発屋」の挑戦に迫った。
-:福島牝馬ステークス(G3)で久しぶりの重賞勝利を挙げたデンコウアンジュ(牝6、栗東・荒川厩舎)ですが、おめでとうございました。ここ一連の競馬を見ていると、内容のあるレースが多く、チャンスがあるんじゃないかと思っていたのですが。
佐藤淳調教助手:どうもありがとうございます。上手く行きましたね。頭数が少なかったことは大きいですね。あれが、普通に1800mの小回りでフルゲートだったら、ちょっと距離が長いんじゃないかなと思っていたので。ましてや溜めて良い脚を使う馬ですからね。前回は運良く頭数も少なかったから、スローでお誂え向きみたいな競馬で、また、他馬が良いところで動いてくれて、流れも向きましたね。
▲デンコウアンジュと攻め専として調教に携わる佐藤助手
具合も良かったですけど、運が良かったレースだったのかなと。あの馬は、正直、自分で競馬をつくっていく馬じゃないですからね。一番力を出せるパターンに上手く嵌まったのが勝因ですね。最近、力を付けてきたら、ソコソコ速い時計でも終いに脚を使うようになったけど、前はそういう馬じゃなかったので、スローでドーンという競馬オンリーでしたからね。一時、内枠ばっかり引いて、それに段々慣れて、内から伸びてこられるようになりましたけど、基本は外を走っている方が脚を使ってくる馬で、そういう点も含めて、色々上手くいったんじゃないですか。
-:去年の東京新聞杯は、内からという競馬でしたね。
佐:そうそう。あの時期は内枠ばっかり当たっていて、否が応にも馬が慣れてきたんじゃないですかね。そこまで内を割ってくるタイプじゃなかったのでね。去年の秋くらいから、ちょっと馬もシャンとしてきたところがあったから、ちょうどそういう時期と被ったのでしょうね。
-:客観的に数字を見ている上だと、馬体重の面に関しても、以前よりも増えてきたと分かります。
佐:減らなくなってきているんですよ。その辺もちょっと芯が入ってきたのかなと。向こう(福島)に連れていったら、けっこう大きく減らすようなところがあったので。その頃はあまり攻め馬をキツくやらない厩舎でもあるので、割とあれくらいで良いのかなと思ったけど、最近は減らなくなってきているので、あれだけ使っておいて、今更だけど、ちょっとシッカリしてきたのかなと。
-:競馬の内容や馬体重を見ていたら、それでいて結果が残っている福島牝馬Sだったので、今年はその点で考えて、かなりチャンスはあるのかなという感じに受けたのですが。
佐:登録頭数を見て、少頭数だとスローになるケースが多いですからね。その時点でいいかなと思っていました。
-:ペースが落ち着くと、普通は着差があまりつかないものじゃないですか。ただ、前走は後続を突き放す結果でした。ただ、見る人によっては、もしかしたらペースが上がって、上がりが掛かった方が良いんじゃないかと思っている人が多いかもしれませんね。
佐:それで、前が止まればということでしょうけど、乗っていても、この馬は多分、溜めるだけなんぼでも伸びていくイメージがあるので、ああいう流れの方がいいのかと…。ヴィクトリアマイル2着の時もそうでしょ?けっこう、遅い流れで差してきたので、目一杯に弓を引いた方がビュッと来るんですよね。そういう競馬が持ち味を出せるのかなと思っています。
-:その点で言うと、ターコイズS(3着)なんかはけっこう流れましたからね。
佐:でも、今までなら来られていなかったですよ。去年の春くらいまでは、やっぱり時計が速いところでは実績も残せなかったですから。秋くらいから馬がちょっとシッカリしてきたかなと。
-:見られていて、シッカリしてきた部分とは具体的にどういったところですか。
佐:もともと軽さがウリの馬だったのでした。走りは軽いんだけど、エンジンのトルク感みたいなものが、ちょっとアクセルを上げただけでも、フッと直進安定性があるという。もともと、攻め馬は走る馬だったけど、軽さの中にも、そういうトルク感みたいなものがイメージ的には近いかな。エンジンが付いた乗り物に乗らない人には分かってもらえないと思いますけどね(苦笑)。例えば、軽自動車と普通の2000cc以上の3ナンバーが付いているような車では、ちょっと踏んだだけでも、同じ30kmくらいでも全然パワーが違うからということをイメージしてもらえると。
-:その変化が観られた昨年の秋ですが、富士Sの時はちょっと不可解な敗戦でした。
佐:あの時は、レース中にフケが出ていました。あの時は、変則日程の追い切りになっちゃって、競馬開催がズレたりだとか、トレセンのレクリエーションがあったりだとか、そういう時期にも重なったのかなと。台風で1回延びたこともあったんですよね。あの時は休み明けだったし、基本的に休み明けは走らないですね。先程の通り、攻め馬をびっしりやらないのに、あの馬に関してはソコソコやらせてもらっていて、それだけでは走らないので、使った方が良いのかなと。あの大負けした時は、フケが来て本当に酷かったので、蛯名さんが「ムチを入れたら、急にヘナヘナヘナとなった」と言っていましたから、気持ちが明後日の方へ…。もともと、1年中フケが来るような馬だけど、レースに行って見せたことはなかったので。
-:明確な敗因があった訳ですね。
佐:ハッキリしたので。ただ、ああいうのが1回出て、年齢的にもある意味、成熟してくると、体もお母さんになっちゃう馬もいるんですよね。闘志が競馬に行かなくて、異性関係の方にばっかりいっちゃうこともあるので、そうじゃなかったら良いなと思ったけど、その後も競馬の結果もソコソコ崩れず走ってくれるようになっていたので。ただ、ああいうタイプなので、いつそうなってもおかしくないんですよ。
-:考えたくはないですが、次にそうなってもおかしくないということですね。
佐:いつ来てもおかしくないと思いますよ。年齢的にも大人の女性の馬ですからね。子孫を残す本能のようなものが、いきなりバーンと出ちゃってもおかしくないですからね。
-:良い繁殖牝馬になるんじゃないですか。
佐:でも、ここまでレースを使ったことが影響しそうですね。だから、孫世代くらいに期待ですね。やっぱり牝馬を生んでもらって、その牝馬を繁殖に上げてもらった方が恐らく成功するでしょう…。性格が良いところがあるから走れているので、そういうところは継いで欲しいかなと思いますね。弟や妹もいるけど、あそこまで素直じゃないかなというのはありますね。
-:ヨーロッパは疲れない内に引退するから、有名な活躍した牝馬の子は走りますけどね。
佐:賞金で稼げないところがあるから、早めに繁殖の方へという事情があるので。やっぱりあれだけ素直な性格なのは、ちゃんとオンとオフを切り替えられるし、ああいうところはすごく貴重かなと思いますね。
-:昔はテンションが高かったですか?
佐:いや、そんなことはないですよ。上手く古馬になっても走ってもらえるというのは、オンもオフもあって、やっぱりある程度、素直でないとね。こっちが頑張れと言った時に、嫌だとなっちゃうと走ってくれないのでね。