
佐藤悠太調教師インタビューpart2 充実の1年 選んだ"異例"の勉強の地
2025/3/3(月)
2024年。前年末に7度目の挑戦で難関を突破した佐藤悠太調教師は、中東、香港、そして北海道からトップステーブルまで幅広く足を運んだ。恩人である先輩調教師たちと挑んだ海外遠征、そして肌で感じたトップステーブルの凄み。そんな中、師は技術調教師としては"異例"とも言える、とある場所へ向かった…
充実の1年 海外と生産の現場で得た"学び"
——調教師試験合格はスタートライン、とのことですが、合格してから杉山晴紀厩舎に技術調教師として入られました。まずはその経緯から伺いたいです。
助手時代に調教師の先輩方から色々アドバイスをいただいていたのですが、特に杉山晴紀調教師は勉強のことに加えて、調教師になってからのことも色々アドバイスをいただいていました。

"恩人"のひとり、杉山晴紀師(左)
杉山調教師は(所属していた)寺島良厩舎とほぼ同期開業で、金沢の父の厩舎に所属している吉田晃浩騎手が杉山調教師と中学校の同級生という縁があるんです。
その縁もあって杉山調教師が武宏平厩舎の助手時代から存じ上げていて、だいぶ前から色々相談に乗っていただいたりしていました。杉山調教師の馬作りはずっと見ていましたし、受かったら杉山調教師のもとで勉強させていただきたい思いがあったんです。
杉山調教師はこれまで本当にずっと励ましてくださいました。調教師試験に落ちた時は家に家族ごと呼んでもらって、ご飯を食べながらアドバイスをいただいて…。合格後はすぐに杉山調教師のところで勉強させてほしい旨を伝え、上半期はオーナーさんと杉山調教師のおかげでドバイ遠征、香港遠征に帯同させていただきました。

香港にて、エルトンバローズの調教に騎乗する佐藤師
——海外の貴重な経験の裏にそのような縁があったのですね。
海外遠征の縁といえば、昨年はハーツコンチェルトのサウジアラビア遠征にも帯同させていただきました。管理する武井亮調教師は寺島調教師と北海道大学の馬術部の同級生という縁があるんです。
寺島厩舎時代から武井調教師とも繋がりがあって、それこそ二次試験前にアドバイスをいただくこともありました。調教師試験に合格した後に「ハーツコンチェルトの遠征に帯同してほしい」と連絡していただいて、本当にビックリしましたね。帯同させていただけるなんて夢にも思ってもいなかったので。
ハーツコンチェルトのサウジアラビア遠征に帯同して、一度帰国してから今度は杉山厩舎のジャスティンパレスのドバイ遠征に帯同し、また帰国してから今度は春のエルトンバローズの香港遠征にも帯同させていただいて…。本当に貴重な経験をさせていただきました。
オーナーの皆さんのご理解も非常にありがたかったです。遠征先でご縁のあったオーナーさんの明け2歳馬も預託していただけることになりましたし、昨年一年間は真っ暗闇のトンネルの中から抜け出して、一気に世界が広がった感じです。いただいたご縁と皆様の支えに感謝しています。

——合格から1年と3カ月が経過しようとしています。この間の時間は長かったか、短かったかでいうとどちらでしょう。
短かったです。あっという間でしたね。色々な皆さんとのご縁をいただきましたし、5月には北海道のレイクヴィラファームさんにも行かせていただきました。
——レイクヴィラファームさんといえば育成牧場ではなく、生産牧場さんですね。
技術調教師として育成牧場に行く方はいますが、生産牧場に行くパターンは珍しかったと思います。やはり自分の目で生産の現場も見たかったんです。勉強させていただきたかったんです。
——なぜ育成の現場だけでなく、生産の現場にも足を運ばれたのでしょうか。
以前スタッフとしてノーザンファームさんにお世話になっていた時は、1歳や2歳といった育成馬の担当だったんです。当歳馬がどのように成長していくか、机の上での勉強では知っていましたが、実際現場で見る機会がほとんどなかったのです。一つでも多くのことを吸収したいという想いからでした。
本当に勉強になりましたね。仔馬の管理から母馬の管理まで衝撃の連続でした。一週間ほどの時間でしたが、本当に行って良かったです。

——生産の現場を自分の目で見て、特に印象的だったことはありますか?
特に印象的だったのは、レイクのスタッフさんが「ここで生まれて、ここに戻ってくることはほとんどないので」という話をしていたことですね。
母馬になってその牧場に戻ってくることはなかなかないことで、母馬として戻ってくるならいい馬生だと思う、という話をスタッフさんがされていたんです。
ブラックタイプ(血統表)に載るくらいの活躍を見せないとなかなか牧場には帰ってこれませんし、牧場に帰るのは奇跡的なことだと改めて感じました。
レースでいい成績を挙げるのはもちろんのことですが、結果を出して牧場に戻すことができれば生産者の方も喜んでくれるでしょうし、馬を牧場に戻せる調教師になりたい、そんな厩舎にしていきたいと強く思いましたね。
一助手としてトレセンで働いている時は、いかにこの馬を少しでもいい状態で、少しでも乗りやすい状態にしてジョッキーに渡すかを考えて、その結果に一喜一憂していました。
ただ生産の現場を見させていただいたことで、その結果の先に待ってくれている生産者の方がいることを忘れずに馬作りに励みたいという思いがより強くなりました。
——そんなレイクヴィラファームで生産された2歳馬も入厩されるとか?

佐藤厩舎からデビュー予定のナオミノユメの23・ショウグンマサムネ
そうですね。レイクヴィラファームさんで研修中に見ていた明け1歳馬をオーナーさんから声を掛けていただき、佐藤厩舎からデビューする予定です。
レイクヴィラファームさんで生産されたスワーヴリチャード産駒・ショウグンマサムネも佐藤厩舎からデビュー予定です。楽しみにしている一頭です。
——ショウグンマサムネの馬主さんは"ナオミ"の冠名でも多くの競走馬を所有されている塩澤正樹オーナーですね。

塩澤オーナー(右から2人目)と佐藤師(一番右)
一番左は今村聖奈騎手、隣が寺島良師
塩澤オーナーには牧場時代からお世話になっていて、色々勉強させていただいているんです。息子のように可愛がってくれていて、受験勉強の時も応援してくださいました。塩澤オーナーの繋がりで他のオーナーさんを紹介していただけたりと、オーナーに出会えたのもターニングポイントの一つです。
肌で感じたトップステーブルの凄み
——生産牧場の現場を見た後は、各厩舎を回られて技術調教師として研鑽を積まれたと伺っています。感じたトップステーブルの凄みはどのあたりにあると考えられますか?
半年近くは杉山晴紀調教師のもとで勉強させていただきましたが、杉山調教師はあの若さでこれだけの成績を挙げられていて、全ての面において尊敬しています。

色々な面に長けていらっしゃるのですが、言葉を発することがない馬の今の状態を感じ取ると言いますか、今何が求められているかの観察力、洞察力に長けていらっしゃると感じています。そこが杉山調教師の魅力だと思います。
先生の2歳馬のデビューへ向けてのアプローチの仕方、結果が出なくなってきた時に何が必要なのかの対策、牧場さんとのコミュニケーションの取り方など、真摯に取り組まれる姿をじっくり見させていただくことができました。杉山調教師の馬を見ての馬体の把握、性格の把握の仕方は勉強になることばかりです。
——美浦の田中博康厩舎にも研修に行かれていましたね。
博康調教師の厩舎はまだ若いチームなのですが、厩舎をチームとして、同じ方向を見れるように取り組んでいるところがありました。これは同じくお世話になった栗東の吉岡辰弥厩舎も同じでしたね。
田中博康厩舎はミーティングも他の厩舎であまりやっていない方式を取ったり、チームとして動いている印象を強く受けました。ここはマネしていきたいところです。

新進気鋭の田中博康師(右)
博康調教師からは本当に色々なことを教えていただきました。ほぼほぼ初対面でそれまで交流はなかったのですが、電話でアポを取らせていただいて研修に行かせていただき、包み隠さず教えていただきました。
スタッフさんも親切で、聞いたら何倍にもして答えていただくなど、博康調教師もスタッフの皆さんもとても明るい厩舎でしたね。
吉岡調教師の謙虚な姿勢と、馬を大事にし、もっともっと吸収しようとするあの熱量も見習っていきたいところです。吉岡調教師もずっと私のことを気にかけてくれて、オーナーさんや生産牧場さんを紹介してくださったり、自分の考えていることを惜しみなく伝えてくださりと感謝の気持ちしかありません。

吉岡辰弥師(23年名古屋グランプリ優勝時)
——佐藤調教師は寺島厩舎の出身ですが、寺島厩舎のマネをしたい部分も教えていただきたいです。
働き方のシステム的な部分は、ほぼほぼ寺島厩舎のスタイルを踏襲させていただく予定です。そこに更に色々取り込んでいく形を目指しています。
ゼロから厩舎を作っていくことになりますが、新規開業からの厩舎づくりは寺島調教師がここまで実践してくださっているのを、間近で見ることができていますので、その経験はとても大きいと思っています。
寺島調教師はコミュニケーション能力が高く、スタッフにさりげなく優しい一言をかけたりしているところも見てきました。スタッフの意見も上手く取り上げられていて、人間力を学ばせていただきました。
そんな人柄の師匠がいたからこそG1を勝つ厩舎になったと思いますし、チーム作りのお手本になりました。寺島調教師が師匠で本当に良かったなと思っています。師匠の厩舎づくりは自分もマネしていきたいところです。
——ここまで名前の挙がった厩舎は、いずれも毎週のように勝ち星を挙げる名門ばかりです。勝つには勝つだけの理由がある、ということでしょうか。
どの厩舎もチームワークがいいんです。一頭の馬の成績を上げるためにスタッフさん全員で悩んでいましたし、毎週勝ってプレッシャーもある中で凄く仕事を楽しんでいる姿は、自分の厩舎でも見習うべきものだと思います。

寺島調教師(左から4番目)の初勝利時 ※佐藤師は一番左
——強い馬が来れば勝てる、というわけではないのですね。
そうですね、強い馬が来ればいいわけではないと思います。何が正解か分からない世界ですが、より試行錯誤して、オーナーさんや生産者の皆さん、ファンの皆さんに喜んでもらうにはどうすればいいのか、どの調教師方も真摯に向き合っておられました。
——杉山厩舎などで研修した際、海外にも多く行かれていたと先程おっしゃっていました。海外で勝つシーンがよく見られるこの時代ですが、ファンの側からは見えないトップステーブルの苦労も多いのでしょうか。
これは強く感じました。日本で結果を出さないと行けない舞台でもありますし、ワンチャンスをモノにするために、トップステーブルで結果を出している方々がより繊細に調整して、あのような大舞台に行っているのだなと勉強になりました。

海外に行くと同じ厩舎の中で右も左もG1馬という状況になります。その中でG1馬を担当するスタッフの皆さんの仕事を間近で見れたのも勉強になりましたね。各厩舎の色も感じ取ることができました。
特殊な環境で調整できる場所も限られますし、歩様検査も独自のものがあります。日本のレースとはタイムスケジュールも違ったり、何から何まで違う中で皆さん緻密に計算されていて学ばせていただくことが多かったです。
皆さんからは馬作りについて惜しげもなく教えていただき、大変勉強になりました。感謝の気持ちでいっぱいです。
プロフィール
【佐藤 悠太】Yuta Sato
1988年5月3日、山形県生まれ。祖父、父が上山競馬で調教師という家庭で育つ。幼少期から夢は調教師。県立山形南高校を卒業後、日本獣医生命科学大学で動物栄養学を専攻。卒業後はノーザンファーム勤務を経て、栗東の田中章博厩舎、寺島良厩舎にて調教助手を務める。7度目の挑戦となった2024年度新規調教師免許試験に合格し夢を叶え、この春厩舎を開業するホープ。