福永・ワグネリアンが積極策でダービーを掴み獲る!【平林雅芳の目】

ワグネリアン

18年5/27(日)2回東京12日目10R 第85回日本ダービー(G1)(芝2400m)

  • ワグネリアン
  • (牡3、栗東・友道厩舎)
  • 父:ディープインパクト
  • 母:ミスアンコール
  • 母父:キングカメハメハ
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《さだまさし》の国歌独唱が静かに厳かに場内に浸透していく。母親の胸の中に抱かれたような安心感に満ち溢れた。そして興奮のるつぼと化しゲートインとなった東京競馬場。そして12万が見つめる中を歓喜のゴールを割ったのは悲願の福永・ワグネリアンだった。またあの勝負服、ディープインパクトでキングカメハメハでマカヒキで見た、あの勝負服が6955頭の頂点に立った瞬間であった。

レースの前から、どの馬が行くのだろうと展開が話題となっていた。ダービーだけに思いがけない馬が機先を制して出て行くのだろうかと。何せ、前に行く馬が軽視されそうな流れが見える。先行策ありのダービーではないかと、嫌な予感ばかりが募っていた。パドックはかなり前から陣取っていた。見渡す限りのパドックの周りの人、人、人である。

14時53分、ダノンプレミアムを先頭にパドックに馬が入ってきた。活気があるのと、入れ込みは違う。そこを見極めようと持っている専門紙にチェックを入れておく。
何回か周回しているうちに何かがおかしいと気が付き、知り合いのカメラマンが隣りにいたから『エポカドーロがいないですね~』と問いかける。カメラマンの仕事は眼の前にいる馬を撮ること。気がついていなかった様子である。
15時01分、エポカドーロが入ってきた。何かあったのだろうが、知る由もない。ジョッキーがパドックの真ん中の輪に入る前にそこを後にして、いつもの返し馬を見られる場所へと移動する。

アドマイヤアルバが、一番先に馬場へ入って来た。次いでグレイル。そこからかなり時間を経て、誘導馬を前に16頭の馬が入ってきた。芝コースへと入って、すぐにキャンターで4コーナーの方へと向かう馬がほとんどで、ゴール板の方へと歩いて行く馬の少ないことよ。たった4頭、ダノンプレミアム、タイムフライヤー、テーオーエナジーとオウケンムーンだけであった。
友道師も左の席に着いた。調教師席は違う階なのだが、ここカメラマン席、厩舎関係者の席で良く見かける。そして数々のレースでここで祝福されているのを観ている。 グリーンチャンネル関係者とかゴルゴとかTVで良く見かける顔も廻りにいる。いよいよクライマックスが近づいてきた。

《6955頭の頂点に立つのはどの馬だ!》と場内のボルテージも最高点に達した。そしてゲートが開いた。
エポカドーロが真っ先に飛び出していった。ジェネラーレウーノの前に行くつもりだ。そしてワグネリアンが出してきた。《そうか、これかっ!》とモヤモヤしていた先行策をとる馬の存在が今、ハッキリと判った。福永が勝負を賭けてきたのだと。
わがジャンダルムは、スタートして気負っているのが判る感じだ。最初のカーブまでに窮屈な位置となってしまっている。

2コーナーを廻っても、前の馬の位置はおおよそ変わらない。エポカドーロが先頭。2番手ジェネラーレウーノ。そこから半馬身で、インにダノンプレミアム。1馬身後ろがコズミックフォースでテーオーエナジーが続き、ワグネリアン、ブラストワンピースが半馬身ずつ連なる。テーオーエナジーの真後ろにいた蛯名騎手のゴーフォザサミットは、前をカットされて位置が下がってしまっていた。

向こう正面では、先頭のエポカドーロと最後方のアドマイヤアルバだけがポツンと馬群から離れて、後はほぼ等間隔で連なっている状態が続く。
3コーナーを過ぎても隊列は変わらず。《1000m通過が60秒8と、ややスローに落としました》とNHK.TVでのアナウンサーの声を後で聞く。昨年のマイスタイルの63.3秒ほど遅くはないにしろ、ユッタリとマイペースに落とした戸崎エポカドーロのペースである。
ふと、後ろの方を観るとキタノコマンドールがブービーの位置にいるのを知る。いくらなんでもここでは届くまいと思える、前からかなり遠いところである。
4コーナーを廻って直線へと入って来た。2番手のジェネラーレウーノの鞍上の手が動いている。

直線もラスト400mが近づく。1頭エポカドーロを先頭に、後ろが扇形に広がる。コズミックフォースが外から伸びようとしている。その外をあの勝負服が勢いを増して伸びだしている。ワグネリアンだ!内ではダノンプレミアムはまだ手応えがありそうだ。ブラストワンピースも進路を探している感じだ。そしてエポカドーロが追いだした。1馬身前に出たか!コズミックフォース、ワグネリアンにダノンプレミアムも、まだ食らいついている。

ラスト200m、戸崎騎手が左ステッキを振るって腰を入れて追いだす。真ん中のコズミックフォースの伸びがなくなりだした。ワグネリアンがジワジワと前に迫る勢いである。最後に福永騎手の右ステッキが2発入って、ワグネリアンが完全に前に出た。ゴール寸前に福永騎手の右こぶしがぐっと握られたのを観た!

カメラマン席も興奮のるつぼ。友道師に握手を求める。その時には笑顔だったのに、検量室前の枠場で金子真人オーナーの傍では、涙顔でクシャクシャの友道師であった。金子オーナー、4度目のダービー勝利である。福永騎手はついにダービー・ジョッキーの称号を手に入れた。キズナの時のエピファネイアで誰よりも自分を叱った事だろう。だが今回の勝利は彼のレースの読み、そしてそれが出来るワグネリアンとの信頼関係。全てが噛み合ったからの勝利なのである。

10Rが終わった後に、検量室で彼が勝負服を脱いだ時に声をかけた。《祐一!、おめでとう!》と。すると手袋を外して寄ってきてくれた。ハグをした時に《これで大人のジョッキーの仲間入りをしたな!》と続けた。近年の騎乗ぶりを目の当たりにして、何でダービーを勝てないのか不思議に思っていたぐらい。これで脱皮してさらなる進化をしてくれるだろう。

京王線の新宿駅からJRへと歩いている時に、JRAのダービーの看板が目に付いた。ダービー馬の絵の写真が連なっているものだ。ディープインパクトの後にすぐオルフェーヴルが続いているものである。《そうか!、これか!》と気がついたのが遅かった。
ダノンプレミアムと人気を二分した弥生賞。ダノンプレミアムが出なかった皐月賞で1番人気に支持されていながらあの結果となったワグネリアン。でもあの敗戦を糧にダービーで大きく開花させた。
友道師も福永騎手も凄い!と思った85回目の日本ダービーでありました・・。


平林雅芳 (ひらばやし まさよし)
競馬専門紙『ホースニュース馬』にて競馬記者として30年余り活躍。フリーに転身してから、さらにその情報網を拡大し、関西ジョッキーとの間には、他と一線を画す強力なネットワークを築いている。