【有馬記念】キタサンブラック武豊しか口にできない言葉…こちら検量室前派出所(仮)

キタサンブラック

キタサンブラックで有馬記念を制した武豊騎手

●レース前は普段の「ユタカ・スマイル」

気温がグングン上がり、ここは宮古島かと思うくらい暖かかった土曜と一転、肌寒い12月らしい気温で迎えた2017年の有馬記念(G1)。最寄駅であるJR船橋法典駅は朝から混雑しており、この光景を見ると今年も有馬記念にやってきたという気持ちになるものだ。

昼頃に5万人を突破した来場者はさらに増え続け、8レースが始まるころにはすでにスタンドは満員になっていた。その8レースが終わり、検量室前に戻ると、現れたのは今年の有馬記念の大本命・キタサンブラック(牡5、栗東・清水久厩舎)に騎乗する武豊騎手である。この日の騎乗予定は有馬記念のみ。この時間の登場となった。

年末の風物詩として競馬ファン以外の注目も集めるこのビッグレースで、大本命。しかも今回が引退レースの名馬に騎乗するプレッシャーは、とても想像できない。しかし自然体、リラックスしているようにすら見える。ジョークを飛ばすその姿はいつもの武豊騎手だ。

先月のジャパンカップの日も朝、ご挨拶させていただいたが、その際もジョークを交えて、いつも通り笑顔。何百というビッグレースに騎乗し、数多くの名馬を勝利に導いてきたその経験が為せる業なのかもしれない。「今日はよく眠れましたよ。目覚まし時計を掛けなくて済みますからね」と笑顔で語るその姿は、とても2時間近く後に有馬記念を控えて緊張している姿には見えなかった。

有馬記念本番が近付いてきた。ビッグレース直前のこの方はいつもレースに気持ちを集中しているのか、近づけないくらいのオーラを放っているように見える。ちょうど検量室裏の階段でお会いしたが、こちらがいつものように頭を下げると、それに頷く武騎手。いつも通りの本番モードだ。

●「名誉のプレッシャーを味わいました」

その約20分後、迎えた有馬記念本番。主役・キタサンブラックがレースの主導権を握り、そのまま逃げ切り。GⅠ7勝目を挙げ、また1つ勲章を増やした。レース後、検量室前に戻ってきた武豊騎手は関係者とガッチリ握手を交わし、その顔には再び『ユタカ・スマイル』が戻っていた。レース後の記者会見で、プレッシャーについて問われた武豊騎手はこう語った。

「プレッシャーはありました。ただ、これは名誉のプレッシャーですからね。それを味わいました」。

プレッシャーを味わうという表現。この境地に到達する人間はほんの一握りだろう。何百というビッグレースを経験し、結果を出してきたこの方だからこそ、出てきた言葉ではないだろうか。

その後はいつも通り、笑いながらジョークを飛ばすいつもの武豊騎手に戻っていた。話はいつも面白い。セレモニーで歌うことになるのか気にしながら、再びファンの前へ戻っていった。

勝ったキタサンブラックは、これから種牡馬となる。GⅠ7勝、稀代の名馬として、競馬ファンだけでなく、お茶の間からの注目度も非常に高い馬だった。

有馬記念の4日前、最終追い切りが終わった後に馬房で見させていただいたが、別次元と言ってもいい体つきで、筋肉の塊だった。馬は調教でここまで筋肉をつけ、そしてそれを研ぎ澄ませることができるのだなと、あの時は大変勉強させてもらった。

レース後、表彰式に備えて検量室前を周回していたキタサンブラックを、ファンやカメラマンが一斉に撮影する。カメラを気にする馬も少なくない中で、この馬は実に堂々と歩いている。これが王者か。この姿を見られるだけで貴重な経験だ。

武豊騎手は、北島三郎オーナーと表彰式の前にこんな話をしたそうだ。「本当に凄い馬だね」と。名馬キタサンブラックは、我々やファン、そして日本中の人々に鮮烈な印象を残し、ターフを去った。

キタサンブラック
キタサンブラック
武豊騎手、北島三郎オーナー、前田健太投手

右から武豊騎手、北島三郎オーナー、プレゼンターの前田健太投手